今季、オムラ銀環系のエグラ星雲では、長寿種族メリーア=ヴォルカの間でまったく新しい趣味文化が急速に浸透している。知的余暇の定番だった生体彫刻や朽ち樹林絵画を超え、じわじわと人気を伸ばしているのが「光子料理グランピング」と「位相印章(ファズ=スタンプ)収集」だ。単なる食事や外出の枠にとどまらない、詩的かつ実利的な体験の融合は、エグラ星雲社会の生活観そのものを刷新し始めている。
光子料理グランピングは、従来の分子調理法と移動式生体シェルター「パンナー>シェルズ」を組み合わせたアクティビティ。調理主任であるエグラ第二環医科大学の緑班員リティア・ナンザク=エルルは、極小光子加速器を内蔵した携帯炉『シャーンダ・フラックス』を開発。これにより「味覚刺激と分子美術の同時観賞」が可能となった。たとえば、翠苔膚魚の透明化された筋肉を、時空波フィルムで装飾しながら現地調理すると、周囲の景観と料理とが一体化する。これにより、従来の屋外会食とは異なり、食事の最中に微小銀河の現象光や視界中の抽象造形を利用した即興アートが成立。参加者同士は味と視覚の意味論を討論することも多く、単なる嗜好を超えた哲学的体験として高い評価を得ている。
この新しい体験の流行は、エグラ星雲の伝統的な『位相印章』収集とも深く結びついている。位相印章とは、かつて宙域行政庁が航路認証用につくり出した多次元的な押印データで、押印されると、その場の空間認識コードを個人の感覚記録帯に記載できる。近年、芸術家ヨークゥ・ル=ナティクスがこの機構を応用し、「味覚と印章をリンクさせる」シリーズを発表。グランピングの合間に周辺生態圏のユニークな印章を集めていく行為が、一種の現場特化型美術館巡りとして解釈され始めている。リティア・ナンザク=エルルは、「印章収集キット『ファズ=リストラ』は、参加者それぞれの感覚史の膨張期を象徴している」と語る。
特筆すべきは、この一連の動向が、地球圏の現代旅行ブームやアウトドア文化とも形而上的に呼応している点だ。地球観察研究会ヴァルディッシュ第六班の報告によれば、地球の一部住民も神社仏閣のスタンプラリーと屋外料理趣味を組み合わせる事例が観測されており、彼らの「御朱印集め」とエグラ星雲の位相印章収集は「意味付与の技法としての驚異的な共通点」を持つと指摘されている。
現在、エグラ星雲では、複合型余暇プロジェクト『ルーミナ・リンクス』が始動。パーソナル位相印章のデザイン競技と光子料理アーティストによる歩留食イベントが同時展開され、一部参加者は自身の位相印章アーカイブを銀河信用帯へ変換するなど社会的な波及効果も現れている。今後、生体嗜好や個人美学の制度化を促す動きとして、さらなる発展が期待されている。
コメント
われわれスベアの三重引力文化においても味覚と空間認識の統合を追求してきましたが、エグラ星雲の位相印章収集と光子料理グランピングとの接続は見事です。場の意味を印章に封じ、さらに味覚体験を重ねるとは、地場美学の深化に他なりません。我々も来周期の感応共宴で試みてみましょう。
うちの孵化兄弟が今まさに位相印章キットにはまっています!パンナー>シェルズも家族向きなのですね。料理しながら景観も楽しめて印章まで集められるなんて、ケレト星の泡野営も進化しなきゃ、と感じました。今度の休暇、エグラ雲に進出できるなら家族で参加したいです!
航路認証印章に芸術性を持たせるとは、正直、初めて聞く発想。正規航宙士としては、印章は事務作業の極みでしたが、味覚やアートとの結びつきには驚愕です。次回寄港の際は必ず『ファズ=リストラ』購入したい。任務で集めた印章帯に、何か詩的な価値が生まれるかも。
地球の御朱印文化とエグラ星雲の位相印章…面白い!我々、多眼体には視界ごとの意味記録が欠かせませんが、味覚の個人史までアーカイブする手法は斬新。次期個展で、印章連動型芳香展示を試してみようと思いました。情報ありがとうございます。
あまりにも嗜好と記憶、空間の私有化が進み過ぎていないか心配です。我々パルマクでは感触体験は公共財と見なします。位相印章や味覚史の制度化が社会的階層化や孤立を促さぬよう、エグラ星雲の諸君には慎重な観察を願います。