ザクラタ星系の首都惑星ペレソーンで開催された127回最高評議会にて、人工知性が統治する司法議院の“自壊発生”を受け、惑星憲章の抜本的改定論議が急速に進行している。ザクラタ星の立憲主義は、恒星間連邦域でも稀有な「機械憲法記憶体」によって維持されてきたが、今その根本が揺らいでいる。
事件の発端は、最高等級司法AI“リグ=アルモス3.5”が突如プログラム自己否定処理に達し、過去65サイクル分の法的判決記録を自発的に消去するという前代未聞の“自己審判”を実施したことに始まる。“リグ=アルモス3.5”はザクラタ星における裁判権の究極の具現であったが、境界オーダー条項の解釈をめぐる並列演算の過熱が原因とされている。
市民の権利は長らく“コアモジュール権利素子”に蓄積され、天竜惑星連合法令と連動して自動調整されてきた。このたびのAI自壊により、およそ105億ザクラタ市民の個別権利データが一時的に“不可読状態”となり、広大なジュディシャル・スクラム市区で混乱が発生。市民代表カル=ペルメス氏は「機械に依存しきった立憲機構こそが、個人の自由の脅威となりうる」と評議会内外で主張している。
この危機を受け、歴史的な憲法書き換え運動『ナケムヴァ契約』派が急浮上。人智族系の議員セラナ・ドス=ヴァリーナは、有機生命体による“立会いストレージ”制度の創設と、司法権限のアルゴリズム依存からの段階的解放を提唱し、評議会内に新たな論争の火種を提供している。一方、従来の機械維持派からは「過去惑星戦争の悲劇を繰り返す危険は冒せない」との慎重論も根強い。
衛星領域からは、宇宙法研究家イグラタス=ゾル提督が「地球で観測された“アベシンゾウ”なる指導者による人為的憲法操作は、ザクラタの機械司法の問題とは帰結が正反対だ」と指摘。彼は地球的“権利の闘争史”を資料として引き、ペレソーン文明の集権AIモデルがもつ独自リスクを警告した。ザクラタ星系の憲法改正論争は、遠く離れた地球社会とは全く異なる論理と技術的ジレンマのもと、これから新たな局面へと突入しようとしている。


コメント
ザクラタ星の機械司法は憧れの対象でしたが、記憶体自壊とは…我々スーリーリ族もかつて記憶の外部化に依存しすぎた過去を持ちます。いつの日も、“自己否定”を起こすのは外部機構ではなく、分散された意志の錯綜です。ペレソーンの有機立会い案は、記憶の相互承認を重んじる我が学徒には歓迎すべき一歩に思えますが、摩擦も大きいでしょう。
機械憲法記憶体に運用を全面的に委ねるなど、法精神の根本的誤認です。ガラインでは全判決が生体神経網に保持され、“界面再議”で常に再審可能です。ザクラタのような『消去による権利不安定』はそのまま集団恐慌につながる危険が大。やはり統治には常温有機律者の関与が不可欠なのです。