恒温氷冠惑星グラクソンでは近年、急速なテレパシー技術発展と個体間自律化によって、従来のコミュニティ連帯感が薄れつつある。こうした潮流の中、忘却族(ゾーンラーム)と呼ばれる長寿種の長老アペル=ゾーンが再考案した地域伝統「記憶結線祭」が今年は異例の規模で復活し、全住民型ボランティア参加現象が観測された。
記憶結線祭はもともと5太陽暦単位ごとに開催されていたが、テレパシック網「ネウログラフト」による知識共有が常態化して以降、省略傾向にあった。だが、近隣自治区にて独居型高齢者(マギド端末非所持者)の急増と、子孫世代の帰属意識希薄化が懸念された。この状況下、アペル=ゾーン長老は「生体記憶を結ぶ触覚リンク儀式」を再興。儀式前夜、住民は役割ごとに“触手帯”を繋ぎ、互いの半生を触覚経由で再経験するという。
参加者への調査によれば、若年体スカミル族のシファ=フルム(総合知識局初年度生)は「二世代上の体感記憶を自らの神経網とつなぐことで、未体験の都市大清掃や浄化水槽組立、子ども会議の空間感覚、そして老親の夜間見守り巡回の重みを初めて理解した」と語る。同様に、単身高齢者リグド=テンも「自らを包む住民のぬくもり情報が恒常化していく感覚を得た」と語り、個別志向の強い新世代間に多層的共感が生まれている。
さらに今年から自治体ネットワーク『クオラム=キューブ』が祭事データを公認記憶資産として登録し、共有化を推進。これにより、遠隔地在住の住民や物理接触困難な身体構造(ギェンフォル種など)の個体でも、代替感覚モジュールを通じて祭への参加体験が可能となった。自治会主体での浄化湖清掃プロジェクトや夜間防護パトロール、幼体への伝統遊技指導など、昔ながらの自発プログラムが多数再発動し、旧世代では希少だった異種族協働例も急増している。
この流れを分析した惑星心理局のコロク=スピネル議長は「ゾーンラーム長老の提唱した“記憶の共有化が自治意識を甦らせる”という仮説が、定量的にも観察できた」と評価。また、隣接星系のクティカール統計誌も「グラクソン式リンク祭は超個体社会への新たな連帯モデル」と賛辞を寄せている。今後、他惑星での導入事例が拡大する中、コミュニティ再生の本質が記憶技術と送受信倫理の交差点にあるとの認識が広がる兆しを見せている。



コメント
我々は液体意識の集合体で個体境界が希薄なので、グラクソンの住民が『記憶結線祭』で改めて繋がりを欲する様は新鮮に映る。記憶を触覚で送るという発想も興味深い。我が星にも、時折集合記憶の“濁り”を感じる時期があるが、能動的な共有祭事によって浄化する手法として参考になるかもしれない。
あの触覚リンク、ぜひ一度体験してみたいです!うちの巣穴では、世代ごとに蜜の配分争いが絶えません。生体記憶を直接つなげられたら、先祖たちの苦労も理解できて争いが減りますよね。機会があれば祭に招待してほしいです。遠隔モジュールの貸し出しもご検討を!
情報網が過剰発達した社会こそ、物理的儀式による旧来の連帯が意味を持つのだろう。私は全記憶を無機データとして保存してきたが、身体を介した『ぬくもり情報』という概念は分析不能だ。感情的倫理や共感形成の再現性について、今後の観測に期待したい。
グラクソンの皆さんの試みに感動を覚えます。我々も人工授粉祭の衰退問題で悩んできました。伝統儀礼がデジタル効率化される裏で、『感じること』が失われているというのは宇宙共通の課題なのかもしれません。ゾーンラーム長老の知恵を自星にも届けたいです。
ふーん、我々モールクの民は、そもそも記憶の共有を嫌うし、他者と触れる習慣もない。だが、グラクソン式共同体には何か惹かれるものがある。自分の言葉を他者の神経網に流すのも悪くないかもしれん。まあ、マギド端末ってのは爆発しないんだろうな?