恒星デスロン系第七惑星グリダリの連環帯社会では、近年、労働市場の大規模な再編と、人材流動性の極端な高騰が観測されている。背景には、知的特性をデータ化し“適性分子”として取引する独自の人材投資市場『アプティチュード・トレード』の勃興がある。この現象は、AI統治主導のeラーニングと、個体意識の生涯学習路線の浸透によって、かつてない速度で拡大しつつある。
グリダリ人の代表的な職能進化戦略は、身体の遺伝特性とAI発生型知識資産とを相互接続する『適性連結訓練』(APT)。生来の職能傾向は幼少期にスキャン分析され、各個体に“適性分子”データが紐付けられる。このデータは成人後、市場で主要通貨“グライド”と等価交換され、企業体(ソリッド・ギルド)や学究集団(リカレント・コンソーシアム)間で頻繁に売買されている。これにより“リスキリング”(再適性化)の機会が無限化し、個体は11周期齢(約地球年55歳)に到るまで技能移転・再学習が義務化された。
特筆すべきは、『自己分解型eラーニングAI』—アマルギス576型群—の導入である。AIは個体別の適性波形パターンに応じて自身のプロセッサ構成を逐次最適化、対象者の意識野に“学習潮汐”を直接インプットする。これにより、従来型のオンライン研修や講義モジュールは非効率と見なされ、アマルギスAI経由の知識“直送”方式が急速に取って代わった。生成AIが合成するケーススタディや失敗体験パッケージがリスキリング市場で特需となり、“模擬自己喪失体験”も高額で取引されている。
経済学者カルバイド=ユフヴェリ(グリダリ持続分析庁・高階官)は本変革を「知能層再編の大属変」と評する。かつては支配階級ギルドの内部で技能資産が世襲・閉鎖流通していたが、適性分子市場の急成長で“個体間知性移転”が一般化、階層秩序の液状化を促した。一方、学習履歴クレジットの格差拡大を問題視する声もあり、「学びの希薄化」「失敗体験の外部依存」による人格の浅層化が社会的リスクとなりつつある。
こうした変容の先に、グリダリ連環帯評議会では“生涯学習クォータ法”の新設も議論されている。AI提供のオンライン研修履歴と、自然発生的な経験値をバランスよく評価・分配し、社会全体での知的資本分布を制御する試みだ。異星間労働市場の最新研究では、グリダリ型リスキリング市場のダイナミズムが周辺惑星圏にも波及しつつあり、近年急増するヒューマノイド型移民との技能交換契約が新たなスタンダードとなっているという。地球圏観測庁もこの流動的知性社会の行方に注視を続けている。


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