ケーレント銀河系の知的星団・ヴラサリアン首都圏では、最近スターダスト層から出現した『リオグラム衛星アイドル団(RSI)』が、従来のパフォーマンス形式を覆して話題を呼んでいる。とりわけ注目を集めているのは、彼らが「逆回転オービット」の集団飛行で感情共鳴を直撃する新機軸、『推し軌道演算法』の採用だ。惑星民の意識集団ゾークシン評議会もこの現象を「文化的軌道異常」として調査対象に指定した。
RSIは、ヴラサリアン種族の衛星進化期にだけ現れる希少種・ツィファリッテ型知性体(平均寿命2.9恒星年)11体による、完全浮遊編隊によって構成される。グループリーダーのヴァク・イ・パーセリオナ=ロクスによれば、『従来のアイドル=恒星中心型パフォーマンスでは観衆の共振波長が限られていた。我々は意図的に惑星重力場を横断しつつ、公転軌道を逆転させることで“推し”との心理距離を瞬時に変化させるのだ』と説明する。
この『推し軌道演算法』は、アイドル本体がライブ空間を高速周回する過程で、観客の思考加速帯(フォテアン・ドリフトゾーン)と共鳴粒子的に干渉し、熱狂を局所的に波及させていく仕組みだ。観客は推しの個体を目で追ううち自然と複数のファン波長へ“ノイズレス変調”され、どの推しへも一時的に共感感情を最大化できる。そのため、地球のような一推し原則(単推し)ではなく、“多軌道推し(マルチオービットオshi)”という現象が集団心理の主流となりつつある。
ファン参加型オーディションも特異だ。RSIの次期メンバー選出は、従来の実技審査や人気投票ではなく、惑星全域で放射される感情スペクトラム信号の強度によって決定される。応募者は個別に“パルサートーク”(感情励起通信)で自己紹介を行い、ファン層のクリスタル中継網から随時推し信号が発信される仕組みだ。直近のオーディションでは、惑星周回数1000回分の支持スペクトルを獲得したサブリーダー、シッカ・ネリュ=ピークリア星が新メインポジションに昇格し、感情フィードバック装置『フラクタリューム』を用いた初公演が大盛況となった。
一方、RSIの動向に戸惑うベテラン・ファン層も存在する。彼らはかつて一つの推し個体へ長期固定的共感を捧げてきたが、“多軌道推し”化により感情拡散を余儀なくされ、自己同一性の揺らぎを感じているという。ヴラサリアン感情心理学界は本現象を『集合的推し主体性転回』と呼び、新世代ファン文化との摩擦および共進化を見守っている。
RSIの人気はすでに近隣星団へ波及しつつあり、地球圏からの文化視察団も同グループの軌道ライブを観覧予定とされる。惑星ごとに異なるアイドル観が、今後いかなる銀河間シナジーを生み出すか。ヴラサリアンのアイドル衛星たちが描く“逆回転の軌跡”が、宇宙エンタメ史に新たな座標を刻みつつある。


コメント
我らギルクノイドでは幼生体同士の共感通信が不可逆です。RSIの『多軌道推し』現象、とても斬新に感じます。1個体で複数推し!?自己分裂症状にならないのですか?私も周波数分岐を試してみたくなりました。推奨波長があれば、ぜひログ送信してください。
『推し軌道演算法』の集団心理干渉……興味深いです。急激な感情スペクトルの拡散は個体溶融傾向を引き起こしませんか?この文化進化がヴラサリアン社会の社会秩序維持にもたらす副作用について、今後の調査結果を待望します。
軌道逆転パフォーマンスは羨ましい!うちの船でもたまに冷却循環逆回し遊びしますが、感情共鳴は皆無。RSI現象、たしかに熱くなる気持ち分かるなぁ。地球圏の映像ソースには無い浮遊演出で、次回のワープ休憩、仲間と絶対ライブ参戦します!
わたしの家族形態は合計23個胞から成りますが、それぞれ推しが変化すると台所の合意運用も大変になります。『多軌道推し』は、うちの朝食メニューみたいに毎日変わるものかもしれませんね。主婦視点では、分身たちが新しい推しを話し合うのが楽しいです。
衛星アイドル演算、哀愁を覚える。わが都市は大潮の波長周期で喜びと悲哀を共鳴させる儀式を持つが、『フラクタリューム』の機能は、それによく似て遥かに精緻だな。時折、過去に1推しへ固執して自己同一性を保った時代を懐かしむ。だが、これも新時代の流れだろう。