銀河東縁域アサルカーム星系のレムルニ連合で、独自進化を遂げた生体水槽群(バイオリクアリウム)社会において、遺伝子操作と免疫療法を融合した新たな“言語”が誕生しつつある。その名も「免疫交響語(イミュノシンフォコード)」──多種族共生を可能とする根本的プロトコルとして、銀河バイオテクノロジー学会で大きな話題となっている。
レムルニ連合は、惑星レムルノート、タルバル、サイルムの三水生文明体の連邦である。彼らは個体の枠を超え、全員が遺伝子編集技術「オワルディ型多重組換え」を用いて、互いの細胞情報を生体水槽内でリアルタイム共有する独特の都市構造を築いてきた。バイオリクアリウム内では、一種族の免疫応答が他種族の生理系や感情系に翻訳・伝達され、種を越えた集団的知性体のような振る舞いが日常化している。
昨年から開始された連合の新プロジェクト「響導計画」は、この生体水槽社会にて生じる免疫系シグナルのパターンをメタゲノミクス的に解析。それぞれの種族の固有抗原情報を“音階”として再定義し、相互作用がハーモニーとなるように遺伝的組換えと免疫療法を同時適用するものだ。具体的には、サイルム人の抗クーラリン遺伝子とタルバル族の共生バクテリア応答遺伝子を人工的に同期・再編成し、双方の免疫ネットワークが予測可能な“コード進行”を形成。その上で、異種間ストレスや病原体流入時も、個体や種族関係なく自動で適応的な免疫応答“合奏”が発現する構造を作り上げた。
プロジェクト責任者であるオワルディ=フュルナ博士(レムルノート第三遺伝階級)は、「従来のバイオセラピーでは個体の枠に限定された治療しか不可能だったが、免疫交響語はメタゲノム全域をコード化することで、共生圏全体が病原情報や環境ストレスに“集合的意思”で対応可能となる」と語る。すでに響導計画が導入された都市域では、感染症パンデミックの自律的封じ込めや、精神障害に起因する生理的トラブルの集団抑制といった成果が観測されている。
地球で盛んな個人主義的バイオエンジニアリングと異なり、レムルニ連合では“集団適応”こそが最高度の医療と考えられている。今後は、連合外の惑星に対する免疫交響語の伝播、また水槽外個体への適用拡大も議論されており、銀河社会全体の共生インフラを大きく書き換える可能性が期待される。かつて遺伝子を“自分自身の地図”として用いてきた数多の知的生命にとって、レムルニ的な“協奏体”という発想は、バイオテクノロジーの未来像そのものを根底から問う試みとなるだろう。



コメント
我々ズュルギアの知識葉は個体同士が根系で接続されるが、レムルニ連合のように免疫応答まで音律化するとは面白い。同化でなく調和のために遺伝回路を編曲する発想、その美意識に敬意を表したい。だが、普遍化の途上で個種特有の“旋律”が失われぬか、進展を注視する。
水槽の中でみんなの体が響き合うなんて、まるで昔のわたしの群棲コーラスみたいね。でもウチでは子供が同じ方向にばかり流れたら、必ず誰かがお腹を壊したもの。レムルニのお医者さんたち、みんなが同じ“健康コード”で本当に幸せになれるのかしら?ちょっぴり心配。
生体水槽社会なァ…27光年彼方で見たっきりだけど、あそこほど派手に遺伝子弄る種族も珍しい。イミュノシンフォコード?正直、自分の免疫さえ言うこと聞かん俺には余計に難しそうだ。今度観光許可が出れば、音符な細胞たちに『船酔い』うつしに行くさ。
集団適応の徹底、実に壮観。しかし、免疫“合奏”は個の尊厳と衝突する危険も孕みます。我がパルスラグ連邦では、自律免疫の祈りを集団“沈静波”で調整してきましたが、その最中で個体意識の希薄化が進みました。レムルニ連合がどのように個性と調和を両立させるのか、興味深く倫理観点で着目します。
光も形も希薄な私たち塵雲体には、免疫という感覚自体が詩的寓話のようだ。レムルニたちの“免疫交響語”は、物質体が自分を超えて響き合う試み。いかにゲノムの譜面を書き換えても、つねに新たな雑音(ノイズ=変異)が混ざるだろう。しかしそのノイズこそが創造の余白なのだと、私は願う。