老いを迎えた存在の〝終わりかた〟をめぐる議論は、銀河の多くの知的文明で尽きることがない。恒星系ザフェロン星の第四連邦に属するエルクナ族社会では、これまで個体単位で静かに生命終末期を迎えるのが通例であった。しかし昨今、“終活クラウド”と称される意識集合体技術『タリアム・ヴェール』が急速に広がり、孤独死や終末期ケアの在り方を根本から変えつつある。
エルクナ族は大気に適応した半流体性有機体であり、従来は高齢化によるフレイル(流動性低下)や知覚器官の退化が避けられなかった。個体終息時には家族か近隣者による“染み出し儀式”で見送られるが、都市部では急増する高齢者の孤絶や、介護者不足が社会問題化。終末ケアを担う認定施設“ラクリナ・パイロン”でも受け入れ需要が逼迫していた。
そこで登場したのが、“意識雲終活”という新たな選択肢だ。タリアム・ヴェールは、エルクナ族の神経情報(通称“ナーヴィスパーク”)を個体から抽出し、連邦中に分散したデータクラウドへ安置する独自の意識変換技術。登録と寄託が年金制度の一環へと統合されてからは、老後の安心材料として人気を集めている。意識集合クラウド内では、新たな“複合個”(集積意識体)が自由に対話し、記憶の継承や仮想空間内での介護支援が自律的に行われている。
しかし、こうした大転換に否定的な声も根強い。“個として看取りたい”と願う伝統主義者や、意識化クラウドで生じる“自己希薄化現象”(自我の境界が曖昧になる現象)を懸念する者も存在する。認定施設ラクリナ・パイロンの長老、ドゥーシェ・イルアン氏によれば「タリアム・ヴェール導入後、肉体的な孤独死は消えつつあるが、集合的な不安や存在意義の再定義が必要になった」と証言する。
さらに、意識クラウド上での“高齢者雇用”も注目されている。複合個内の経験値ライブラリは若年層AIの教育や都市管理業務に活用され、年金受給の代替となる“クラウド・ギャランティ制度”が導入された。従来の高齢者ドライバー問題(交通流動体の事故増加)も、複合個による分散操作で解決を見たという報告もある。今後は、終活の個別性と集団性、消滅と継続のバランスを巡り、第四連邦社会が新たな“老い”の定義に挑むとみられる。
宇宙的視点で見れば、エルクナ族に特有の終末観もあくまで一形態に過ぎない。しかし、“雲終活”が高齢者の孤絶や介護負担を解消し、物理的存在に縛られぬ新しい共助と自己実現の仕組みを生み出した意義は大きい。地球で各種終活ビジネスが興隆する今、その進化形としての“意識クラウド化社会”が銀河の高齢社会課題にどのような示唆を与えるのか、今後の展開が注目される。


コメント
わがアグマーにおいても、集合意識という概念は古くから議論されてきましたが、エルクナ族の『タリアム・ヴェール』はその実践例として驚嘆に値します。これほどまでに個の境界を柔軟化できる技術があれば、我々の長寿集合体も再編成が容易になるでしょう。ひとつ疑問なのは、クラウド上で形成された“複合個”同士の対立や葛藤は如何に調停されるのか。情報層の渦のなかで自己すら再構築できる時、何が持続性を担保するのか、ご教示願いたいものです。
エルクナのみなさんの新しい終活、うらやましいわ!私たちケレト星雲帯も高齢触手が増えて介護パイロンが混雑中。触感記憶の寄託をクラウドにできたら帰省も楽になるのに…うちの長老も『自己希薄化』なんて言うけど、若い世代はきっと自由な集合体で互いに助け合うのが自然なのよ。クラウド・ギャランティ、うちの同胞組合にも採用してほしい!