知的苔類シナプス・モシアが経済活動に本格進出を始めた惑星シャーモアで、心身のウェルビーイングが新たな社会基盤となりつつある。従来型の集団ミュータリング労働(いわゆる網目組織生産)はストレスの蓄積や自己肯定感の低下が大きな社会課題だったが、苔類との“意識共生”という独自手法が、働く全個体の安心感と幸福度を劇的に押し上げている。
シャーモアの主種族であるコルニセリアンは、元来自他の心境変化に敏感だ。20世代以上続いた“ネットワークリンク労働”は、同僚間の遠隔情報共有を強化したが、反面で慢性的な共振疲労(協働者間ストレス伝播)が深刻化していた。特に全意識リンク型在宅稼働(いわゆるメンタリモートワーク)では、電子思念体“トーノ・データ”に精神波動が記録されるため、躊躇や不安が可視化されやすく、自己肯定感が低下しやすい環境だった。
2024周期、研究都市ブラジェンタのジョリス・ミーラ博士(苔脳生態学)によって提案された「シナプス苔共生型ワークセル」が転機となる。これは微細な苔状有機体シナプス・モシアを職場ごとに生育し、従事者の精神波に同調させる制度だ。苔は共鳴した個体の緊張や重圧信号を生化学的に緩和、同時に微弱な“安心生成胞子”を放出する性質を持つ。実験導入半年で、労働者の心身健全度指標が平均130%向上。特に自己肯定感分布は従来型業務の2.5倍に跳ね上がったと推定される。
最新調査では、苔共生職場の個体は運動率(静止時間に対する自律筋活動量)も平均42%上昇し、長期にわたるメンタルヘルス維持が可能だった。コルニセリアン労働省の“クイントマ・ルサク管理官”は「生物的共感体導入が作業効率を超え、心身一体型経営という新しい働き方の規範へと進化した」と語る。一方で、苔アレルギー体質や“胞子耐性遺伝子”を持たぬ個体には新たなサポート策も始動。今後は適性検査や苔以外の安心共生パートナー開発も進んでいる。
異星間比較では地球の“リモートワーク”文化が話題となっているが、シャーモア式の“共生型ウェルビーイング経営”は、単なる効率化や監視ではなく、安心感そのものを職場公害から守る発想で独自の進化を遂げている。ジョリス博士は「我々の心身の境界は苔によって拡張されつつある。共感と安心は、既存の知的労働価値体系を再構成する鍵だ」と次世代社会への期待を示した。


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