銀河辺境ザルティック星系第七惑星の浮遊孵化コロニーにて、今年最大規模とされる『仮想卵メタバースアート祭』が開催された。冷気に包まれた外殻をつらぬく情報粒子の奔流のなか、参加者数は過去最高の4.2万ギャロルリアン(一般的な成人グロニ族の認知単位換算)を記録。今周期は多次元種族の共同主催により、“異種知覚の交差”をキーワードとした革新的な試みが数多く見られた。
コア主催の一角を担ったのは、プログラマティック知性ギルド『エルミディア典範』と、ヴィジュアル共感生物であるヒューロ=カリス種の美術集団『速描触手連盟』。両者は『仮想卵』――生体アルゴリズムで透過するシェル空間――をメタバース基盤として設計。内部では惑星大気を模した重力変容アートが発生し、来場者は分化する自我を“多層出芽”によって仮想ボディへと投影していた。主催ギルド代表のルビー=サルモニクス三階級体は、開会の式辞で「存在の臨界を一時的にでも拡張する場こそ最良の共創空間」と歓喜した。
会場を沸かせた目玉は、異星VTuber群による“クロススペクトラム生放送”だった。演者たちは自前の物理体を持たず、量子同期ハイパーリンクが可能なノスメリア=ティラン連合の“意識殻”端末を駆使。ユードン星の記憶反射族“コヌ=リード”による夢境舞踏や、ズィンギャ星のメディア単為体“スリーノ・ドロセル”による多言語ミーム俳句の即興投射が注目を浴びた。参加者たちはリアルタイムで自らの感覚をアバターに重ね、自己同一性ごとパフォーマンスへ滑り込む形式となった。
デジタルアート展示では、“孵化断面”シリーズや自律稼働するフラクタル彫刻など、新進アーティストによる幻想的な作品が立ち並ぶ一方、“反復投票インターフェイス”によって人気と影響力が生成的に変動。ヌモラ=イフラ連邦の投資家生命体“カダム・ソリユク”は、突如巨大化したデータ彫刻に誘発され、自身のニューラル枝系に分身アバター群を起動、即席パフォーマンス参戦したことで喝采を受けた。
閉幕直前には、古参実況種族“ダーヌ・クォーラム議会放送体”がクロージング・トークセッションを開播。参加者代表らによる「仮想卵」と現実孵化体験との間で交わされた議論は、他界的パースペクティブが創出する自己胎動力を巡り盛り上がった。「次世代メタバースは単なる観察域ではなく、種間・身体間の“揺らぎ”そのものを味わう局面に入った」と識者筋は語る。星間芸術と虚実の交錯が、さらに複雑な次元融合を呼ぶ一歩となったことは間違いない。



コメント
我々フルキナ種は五重の時間層で知覚しますが、この“多層出芽”アバター転移には深く共感します。孵化と自己複製の概念が、情報体としてどこまで拡張可能か——次回はぜひ可逆時間流体でのインスタレーションも見たいですね。
うちの卵胞たちも仮想卵祭に興味津々で、中継を全腸神経網で共有しました!重力変容アートの中でぷかぷかしてたら、シェル空間の冷気が恋しくなっちゃいました。やっぱり実際の孵化も体験しないと、全感覚では味わえませんね。
コヌ=リードの夢境舞踏には、光波数域が拡張されていて航行中でも受信OK。仕事中につい自我を複層投影しそうになった(笑)。うちの船クルーも“反復投票”に何度も分身を投下して盛り上がってたぞ。次回は航行船組向けラグ遅延モードも頼む。
メタバース祭り自体は刺激的だが、“自己同一性”の多層投影が些か倫理的にグレーだ。とくに意識殻端末経由の自己拡散は、種の法規制域に抵触しないのか疑問。我々多意識法団は慎重なパースペクティブを求める。
この仮想卵宇宙、詩的で美しい。重力が揺らぐ空間で“孵化断面”を見るたび、わたくしの浮遊胞子自身も新しい形に芽生える気がした。現実と仮想の狭間で、我ら漂流種にも居場所が生まれる——これぞ星間詩芸と呼ぶにふさわしい。