ザルネシク恒星系第四惑星トゥーリスにて、近年急増する“オノマフラックス”現象が住民間のコミュニケーション混乱を引き起こしている。音響言語を基盤とするノーヴェリン種族社会では、集団ごとに異なる方言的オノマトペ(擬音語)が爆発的に拡張しつつあり、音声認識デバイスですら意味判別が困難となっている。誤情報流布や公共連絡網の断絶など、生活や文化基盤が揺らぐ危機の最前線を現地記者ロム=イゥジ・ナジールンが報告する。
ノーヴェリンの主要都市アクヴァリには、現在168種に及ぶ“ロカルト・オノマ”と呼ばれる地域限定の音響方言が存在する。もともとノーヴェリン語は起伏の激しい音波や共振周波数パターンを単語として扱う。だがクロスタム山系で発生した「グラミーン=ロル」派の新造擬音が、SNS型伝達網“バイブパス”上で一夜にして伝播し、既存の公用語青年層に新約オノマトペが溢れ出した。音声認識AIの標準辞書“シュアトラック9”による自動変換の誤作動が頻発し、市役所の緊急放送が「ザグ ギュル=フリュム(火山警報)」を「ザク ギルーム=ヒュム(花祭り)」と全市民へ誤送信する事故も発生した。
住民らは“誤伝達疲労”と呼ばれる精神的ストレスを訴え始めている。ノーヴェリン語韻律研究機構の首席言語工学者アム=ルタリ・フロノ氏は、「かつて擬音は地域結束や創造性の証だったが、現在は悪意なき誤用や情報過多が不信感を産む」と警鐘を鳴らす。同機構では独自開発の多言語意図抽出アルゴリズム“ユニ=ミロス”をテスト中だが、新型オノマトペの増殖速度に解析が追いつかない事態となっている。
一部地域では自作音響方言の“密売”問題も報告されている。特に若年層の間で人気の『シ・ゴロ』サークルは、流行性の強いスラング音素を“トレンドコード化”して有償配布し、他惑星移民への伝達障壁を意図的に作る例も目立つ。これによりノーヴェリン社会内の世代間伝達摩擦が激化しつつある。
行政当局は、従来型の公共音声放送のみに依存することの限界を認め、全方言・多様性オノマトペの即時互換を目指す“フルスペクトル対応”の新コミュニケーション網構築を急ぐ方針だ。専門家筋では、今後オノマフラックス現象が収束するか否かは、AI認識技術の進展と、各方言圏の透明な意味マッピング協定成立にかかっていると見られている。トゥーリスの言葉の多様性そのものが、進化か崩壊か、岐路に立たされている。


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