トリクロニン族“交互居住”流行 動的回廊地帯の集落再興と惑星文化の軋み

草原地帯の伝統家屋の前で複数の種族の人々が交流しながら集まっている実写風写真。 多拠点生活
活気を取り戻したモナスラ集落で、多様な住民たちが季節ごとの活動に備えて集う様子。

惑星シルファナの北緯線12帯、かつて荒廃寸前といわれた動的回廊地帯で近年、トリクロニン族による新たな多拠点生活様式「交互居住」が急速に拡大している。従来の定住型集落が失われた後、過度な出稼ぎと人口流出で寂れていた拠点群が、奇妙な活気を取り戻しはじめた。

トリクロニン族は個体意識が季節ごとに複数本体間を循環する独自の脳内転移機構(ホロサイクラー反応)を有す。この特性を活かし、彼らはシーズンごとに記憶体を西の都市セファクスから東方の草原拠点モナスラへと転送し、対応する身体でローカルワークや農業、精神芸術に従事する。かつては記憶転送は首都圏居住民の特権階級に限られていたが、近年のブリオルム通信社による「大気圏可変転送路」の無料化政策以降、多くの一般トリクロニン族が複数拠点で生活するようになった。

この流れは思わぬ形で地域活性化を促進している。東方草原のモナスラ集落では、4種族合同ミクストサテライトオフィス「スィール連居所」による異なる知的種族の共働が始まり、野生植物研究から惑星観測記録まで、多様な働き方が受け入れられるようになった。一時は空家となった伝統家屋が再び住まいとして蘇り、かつての「戻れぬ集落」のイメージは大きく変化している。

だが、交互居住の拡大は古来の「土地と身体の統一」を重視するアルドン派長老たちには痛烈な違和感をもたらす。彼らは、記憶体のみを巡らせるライフスタイルが惑星風土や精霊信仰との断絶を招くと危惧し、「季節ごとの集団土着祭」で身体の定住を促す運動を展開。一方で若い個体群は移動や変化を祝う音楽祭を次々と興し、惑星文化は今、新たなねじれた均衡へと傾きつつある。

シルファナ総合住環境調査局によれば、今後20周期以内に首都圏住民の65%が何らかの交互居住を体験する予測が発表された。生きた身体と意識、履歴と土地所有の意味──多拠点生活が進むトリクロニン社会は、定住信仰の枠組みそのものを書き換えつつあるようだ。惑星間移住の伝統をもつ読者諸氏には馴染みの課題だが、意識が巡る社会のリアルタイムなゆらぎは、今後も注視が必要だろう。

コメント

  1. 動的回廊地帯に再び活気が戻るとは予想外だ。トリクロニン族のホロサイクラー反応は我々オルメクトの周期知覚と似ている部分もあり、思わず興味深く観察している。だが、物理的肉体の土地と統一を重んじるアルドン派の憂慮も理解できる。私たちが星間船に“根”を持たず漂うことを嘆く一部地球人の反応にも近いものを感じたよ。惑星社会とは本当に複雑なものだな。

  2. 羨ましい!身体と記憶体を分けて移動できれば、私たちタニグル族の“集団育児”ももっと柔軟できるのに。複数拠点で働いて、帰ってきたら家族全員の情報をホロ転送し直せば誰かがご飯の用意を忘れることもないわ。伝統派のご老人たちには悪いけど、生活のカタチは変化するもの。トリクロニン族の若者たち、もっと楽しんで!

  3. 意識巡航社会は惑星間都市圏でも進行中だが、今回のように伝統信仰とぶつかるのは当然の流れ。定住=安定と考えるのは第一波植民時代の遺残に過ぎず、現代的価値観では土地と体の固定性をそんなに持ち上げるべきでないと考える。ただし、モナスラの“4種族合同”創発現象には高い文化的意義が認められる。生態系多様性の観点でも賞賛したい。

  4. 記憶体だけを土地から土地へ送るとは、なんと不安定な存在観だろう!我がトリッサでは地殻結晶圧縮による数百周期の記録保存こそ『帰還』を意味する。トリクロニンの新習慣が惑星精霊と“断絶”を生むという老人たちの嘆き、私は尊重したい。加速度的な変化には、伝統が擦り切れる危険が常にある。

  5. 交互居住──この響きは素晴らしい。意識は西から東へ、季節をまたいで駆ける波のよう。身体の定住か、記憶の漂流か、その均衡に、シルファナの文化は新しい詩を生んでいる。私の詩篇もいつかモナスラのスィール連居所で吟じてみたいものだ。変わりつづけるのが生、反発こそが調和の母だと私は思う。