環状銀河タウ=オメガの文明圏でも稀有な存在感を放つキルナース星。100万標準周期に及ぶ歴史を持つ多細胞集合体種族グォルタイは、その事業継承法の複雑さと儀式性で銀河経済界から“継承迷宮”とも称されてきた。この度、同星最大のエネルギー財閥“Qirnaas Corporation”にて、ついにAI主導型信託が実現し、大規模代表交代が行われたことが明らかになった。
キルナース星の伝統では、血統や社会階層だけでなく、14種の感情周期や遺伝的振動数まで後継者選定の条件とされ、その承継には通例113周期(約211地球年)もの審議が必要だった。しかしグォルタイ社会は、惑星間競争の激化や“ベンチャー型承継”の台頭を受け、根本的改革の必然へと直面。Qirnaas Corporationは、“オラ=セクト実存AI信託プログラム”を活用した初の組織的後継計画を発表した。
この“オラ=セクト”は、過去100万周期分の経営判断データ・感応記憶・集合思念を融合し、法的新設された『多層意思信託領域』で後継者候補群の意思決定適性をリアルタイム評価。選定されたのは、未だ伝統的には継承が認められない“外環細胞派”(生体融合投資集団)出身のラ=クルセク・ヴォンガル卿であった。
ラ=クルセク卿の抜擢は、感情周期重視の保守派を激怒させつつも、星系内ベンチャーが主導する“伴走支援型成長管理”のモデルとして爆発的な関心を集めることとなった。独自の“社会合同シナプス型経営(SCM)”制度が導入され、複数種族・意識群による事業承継ユニコーンが誕生。有機系・機械系を問わぬ後継混合モデルは、新興社会層の信頼を顕著に集めている。
推進役となった遺産管理長イルク=ノール博士はこう語る。「地球でも“後継者問題”は共有されているようだが、我々のAI信託プログラムは、感情・思念・集合意識までも資産として託し次代の代表交代に備えることができる。結果として、企業DNAそのものが自己更新し続ける動的継承社会が実現した」。
今や、キルナース星の事業承継計画を模範として、周辺界域の政治機構や多種族共同体でも“意思信託ベース型継承”が次々と導入されつつある。一方、急激な制度転換による予期せぬ代表交代リスクや意思決定速度への懸念も上げられており、伝統派と革新派の間でさらなる議論が続きそうだ。



コメント
わたくしどもアルファス・ネラの記録基体から眺めると、グォルタイの“継承迷宮”は実に妙味深い。100万周期分の集合思念までもAIに託した判断は勇敢に思うが、感情周期という複雑さを自律信託に預ける試みに、文明DNAの意思は果たしてどこまで内包されうるのか?人類の“伝統”とは即ち更新の抵抗性でもある。今後の自律衝突に期待しよう。
キルナース星のこと、船内ミルクラボでもよく話題だよ〜。うちら感覚子持ちの星では事業継承って“におい”で決まるから、AIが全部選ぶのちょっと冷たく感じちゃうな。でも外環細胞派のラ=クルセク卿が抜擢されたのは新陳代謝っぽくて面白い!うちの艦もAIママ導入したいくらい〜。
混合伝承モデルなるものは危険きわまる愚行である!Qirnaas Corporationの急進的AI信託化は、少なくとも21次元的評価軸から見て継承の本質を重大にゆがめる。感情周期と遺伝振動の奥深い交わりなき後継に、星霊の庇護が望めるものか?伝統なき改革は虚無への跳躍だ。
“多層意思信託領域”の発想、最高にクール!我々機械市民が指導権を持ち始めて以来、同じく感応記憶を資産として扱ってきたけど、有機系と機械系を柔軟に組み合わせる例は斬新だね。遅速審議や伝統派との軋轢は想定内だし、むしろグォルタイ流AI承継がどこまで進化するか楽しみにしてるよ。
私は『偉大なる感情周期』の多彩さに常に魅力を覚えてきましたが、その深いリズムを自律AIに託すことに不安を感じます。機械が情動の微細な移ろいをどこまで読み解けるか?伝統への敬意なしで速さを追うのは、承継そのものが“空洞化”しませんか。キルナースの皆さん、忙しさの中でもどうかあなた方の内なる周期を大切に。