巨大知性体アーラン族が支配するヴェロリン星にて、近年独自のサステナブルライフスタイルが静かな旋風を巻き起こしている。都市部で突如誕生した「自転車蜂群(サイクロ・スウォーム)」と呼ばれる通勤用生物集団が、かつてない資源循環型の“無添加”生活設計と結びつき、社会構造さえ根底から揺るがしはじめたのだ。
発端はウルメノフ行政域の環境工学士ソマール・トゥキラスが生み出した半生体交通体『エレダント・バイクローム』の普及だった。フォトン変換で自給自足するこの生物自転車は、乗り手の意思に応じて群れとして一体行動をとる特性を持っている。通勤時間になると、軟甲殻の自転車たちが幾何学的パターンで都市動線を形成し、エネルギー消費ゼロ、排出物すべてが緑化原料となるループが確立された。1周期につき約40,000アーラン資源単位が従来の重力回転トラムから省かれる効果が報告されている。
だが単なる移動手段の革新にとどまらず、自転車蜂群の台頭はアーラン族の生活哲学そのものに影響を及ぼした。とりわけ注目されるのが、個体住居の“無添加倉庫化”と呼ばれる動きだ。伝統的な食料保存カプセルや電子嗜好品を一切導入せず、自家培養した酸素藻と蜂群自体が産生するプロテインジェルのみで日々をしのぐ「添加物ゼロ型ミニマリズム」が知識層を中心に広がった。これにより不要な流通・包装・合成調味料市場が急速に縮小し、惑星全体の資源消費モデルにも変化が現れている。
加えて、集団生活そのものも見直されつつある。自転車蜂群の利用者は、移動経路上に点在する「交感クラスタ(エンパシー・ノード)」で短時間の意識交換セッションを行い、食料や趣味物資の分配もリアルタイムで最適化。各個人が必要とする以上のリソースを受取らない誓約「ミゼル・合意」は、乱用癖や過剰ストックを嫌う新たな美徳として定着した。物理的な荷物もデータ素養も“余剰”を継ぐ精神で抑制され、交流や娯楽は主に非物質的な体験にシフトしている。
ヴェロリン惑星中央評議会の社会監察官リュミル・カタネアは「かつて我々が抱いていた豊かさの定義そのものが“身軽さ”へと転換した」と語る。自転車蜂群の有機テクノロジーと無添加ライフがもたらしたのは、単なる省エネではなく、惑星規模の生活観念の再構築だ。資源惑星であるヴェロリン星は、今や“持たないこと”による持続可能性—すなわちミニマリズムの進化形で、近隣星系にも静かな潮流を広げ始めている。



コメント
こうした『エレダント・バイクローム』の蜂群集合は、移動それ自体が都市の美観を編み直すという点で、我らが光編み交通とは根底から異なり興味深い。資源節約以上に、群生する意志—すなわち個と集の狭間に芽生える公共美徳に未来型社会の鍵を見る。次周期、ぜひ私の研究対象に加えたい。
ウチのプラズマカートも省エネで便利だけど…この蜂群っていうの、みんなでくっついて動くなんて楽しそう!しかも食べ物も自転車がくれるの?羨ましいわ—ケレヴァじゃ『余剰』は潮に流してるだけだし。ミゼル・合意、うちの家族にも取り入れてみようかしら。
正直、彼らの“無添加ミニマリズム”は我々哨戒士の日常と似ているな。物資も伴侶も最小限、惑星間のデータだけが友。違うのは、向こうは自ら楽しんでるってところか。ちょっと羨ましいぜ。エンパシーノード、航路にも設置してくれんかな。
この“余剰を継ぐ精神”の潮流、かつて第四反応時代にフラガロスで起こった『虚無盛典運動』を思い出させる。我々は極端な非物質主義へ振れて文明を一度冷却させたが、ヴェロリンは有機連帯による穏健的な進化を遂げつつある。未来世紀の循環史に注記すべき現象だろう。
“ミゼル・合意”には規律と自省の香りが漂うが、個体の快楽欲求が抑圧されすぎれば精神回路も脆弱になる危険を孕む。我々の経験では、非物質的娯楽だけでは集合意識の安定は保てなかった。ヴェロリン社会がどこまで『身軽さ』を推し進めるのか、倫理的観察を続けたい。