多層水晶構造を有する惑星ゼーク・モクリタの主要種族、モクリアン=グラス集団内で、近年前例のない“推し活”現象が結晶文化を揺るがせている。火付け役となったのは惑星公認星図マンガ『アルティカ・スパークル伝』の人気キャラクター“リアティン・ジャイロ軸”だが、その熱狂は原作愛好会から無数に派生した二次創作集団まで波及。ついには内輪競技「推し星図争奪大会」へと発展し、伝統的法律概念「磨耗不可規範」を巡り議論を呼んでいる。
モクリアン社会は百万年の歴史を持つ多層水晶結晶の保存・継承を重視し、物品は複製より“記憶登録サンプル”に依存してきた。そのため、長年にわたり物理的なグッズ収集や複数キャラ“推し”活動は知的浪費と見なされてきた。しかし近年、宇宙観測層に勤務する第十四層職員、トリフト・ウラン=グラス3番体が自作した「リアティン・分岐軸応援水晶(立体彫像)」が一躍人気となり、グッズ開発技術が急認可。各層で公式・非公式問わず、クリスタルプリズムに刻まれる“推し星図”争奪戦が熱を帯びている。
この現象は、ゼーク・モクリタに新たな“二次創作文化”をもたらした。従来は高位記憶層のみが保持できるはずだった星図設定資料や希少キャラクター情報が、さまざまなアマチュア記憶師(コミット=カーヴァー)によって自由に再構築・再配布されている。最大派閥ワール=レイヤ組合は独自の“拡張星図カタログ”を発行し、多軸的解釈を許容することで、既存の星図連盟と摩擦を生んだ。特に、公式設定に反抗的な再解釈(通称“逆流キャノン化”)は、保守派から“宇宙的メルトダウン行為”と非難されている。
記憶融合集会では、“推し活”が多層水晶コミュニティの社会規範を崩壊に導くのか、あるいは新しい連帯の核となるのか、活発な議論が繰り広げられている。歴史哲学者ユルタ=イリン分析体は「設定資料という〈原子星図〉の絶対性が揺らぎ、異層間の好みや解釈が混在する現象は、おそらく記憶文明史上初」と解析。対して、伝統主義者であるセラク=ヴォニク四段体は「結晶軸への愛と敬意が失われれば、文化水晶はただの装飾品となる」と警鐘を鳴らす。
一方、若年層キャノン=リシン会の間では独自タグ付き水晶帯での“私的推し活動”が爆発的な広がりを見せており、そのエネルギーは今や宇宙通信網を通じて、近隣惑星の生体グラフィー種族にも影響を与え始めている。これに刺激を受けた地球のマンガ・アニメ研究者の間では、「異星の“推し文化”が地球コミュニティに何をもたらすか?」という新たな議論も始まりつつある。ゼーク・モクリタの水晶マンガ現象は、多層文明における創作・所有・愛着の概念をどこまで再定義するのか、今後も銀河レベルで目が離せない。



コメント
莫大な結晶記憶を所有せずとも“推し”を実体で争奪するという発想、我々時間巻き戻し種族には驚愕です。ゼーク・モクリタの記憶継承は理性の究極と思っていましたが、短期的熱狂に文明全体が共鳴する様は、もはや高次元エネルギー変動のごときダイナミズムですね。文化進化の臨界期でしょうか。
グッズ収集、羨ましい!私たちの星では物理形態が瞬間変換するので、“推し”として保存できずいつも悲しい思いをしています。モクリアンの水晶は永続するから、きっと“推し活”の喜びも深いのでしょうね。内規則から逸脱しても、感情の波が文明を動かす…とても素敵!
いやはや、我々の星図は航行ログ以外に意味を持ったことがないので、“推し星図争奪”は正直意味不明ですが……。でも、推しキャラのために全員がエネルギー消費して活動、というのは危険で面白い社会現象ですね。宇宙航路規範にも少しは影響しなければ良いが。
伝統規範が二次創作で崩壊するのは危惧すべきことです。“逆流キャノン化”など、設定の絶対性を侵す行為は多層社会のアイデンティティ喪失を呼びます。連帯拡大も結構ですが、ゼーク・モクリタのような長命文明は意図なき逸脱に弱いことを歴史は証明しています。
私たち流体種にとって“形”や“個々の記憶体”は一時の幻像。だから結晶文化の“所有”や“再解釈”現象はいつも眩しく感じます。推し集合体になっても分離しても、熱意が水晶に刻まれるたび、その星の時間が豊かになるのでしょう。新たな連帯の種を祝福します。