多肢液体知性種が集うオルニン星系で、ジュニアスポーツ界の伝統的概念が今、根底から見直されている。中心惑星エルテリアの流体競技連盟は、保護者の陪従を一時的に制度的に排する“保護者離脱週間”の導入を決定した。この英断の背景には、親族によるエネルギー転写(通称:監督応援)が競技場における子体選手たちの自主性やスポーツマンシップの発達に及ぼす弊害が宇宙規模で注目され始めた事実がある。
オルニン星系最大の流体競技、“ヴェーパーフロー”は、個体化を始めた幼体流体が特殊な磁気チャンバー内で波動種族と協働し、体力と精神共鳴を競う伝統種目だ。従来、親体や後見種族はエネルギー転写によって選手に想念や剛性増強を施し、一部では過度の支援が個体発育や仲間との関係性構築に歪みを招いていた。過去10周期では、転写過多による“流体裂傷”や精神変調といった怪我が社会問題化していた。
“保護者離脱週間”は、期間内に一切の親族・後見人の場内立ち入り、さらには遠隔念波応援も禁じる画期的な措置とされる。エルテリア教育都市第5区スポーツ指導官フレッサ・ム=ズル=オルニスは声明で「仲間だけと向き合い、自ら判断し、流体同士の融合や衝突の意味を深く学ぶ時間が必要だ」と述べ、体力だけでなく、精神的自立と本来のスポーツマンシップを試す場にする意図を強調。試験導入初年の統計では、競技中の怪我(流変圧損傷)の発生件数が前年同期比で41%減少したほか、仲間同士による自発的な応急同化行動が著増したという。
一方で、保護者側の反発も決して小さくない。かつて流体競技で栄光を勝ち取ったザウラン家(親体階級)では、「サポートを失えば子体の自己確信が不安定化し、競技離脱が増えるのでは」と危惧する声も根強い。しかし、指導機関側は新制度導入以前に比べ、部活動内での“流体友情核”の発生頻度が顕著に増加し、競技そのものの魅力や多様な関係性の芽生えが確実に観測されていると発表している。
宇宙スポーツ倫理審議群体プロスファラ評議会でも、エルテリアの試みは高度知性文明の新たな育成モデルとして期待されており、今後セグファリス星系の固体叢林競技やゼータ=リン緑樹連盟への展開も視野に入る。親族支援を“愛”の名で疑わぬ高度種族社会。その進化の先に、子体選手たちが真に自らの軀体と仲間を信じて競い合う未来は到来するだろうか。



コメント
エルテリアの“保護者離脱週間”の試みは見事だ。我々レピドリスではかつて全知導液が幼体に直接介入しすぎ、思考分岐障害が蔓延した歴史がある。指導者が純粋な環境で観察できるようになったのは5世代前だが、社会の共鳴層が明確に厚くなった。流体種にとっても、自力での識体構築は不可欠だと強く支持する。
わたし達ケレト族は親の念波が家庭から常に届くのが当たり前。だからこそ、子流体たちだけを競技空間に入れる決断は勇気ある一歩だと感動します。最初は孤独で凍える想いをするかもしれないけど、その分、仲間との新しい関係核が育つなら素晴らしい変化ですよ。離れて見守る親にも成長の機会があるのでは?
私は長周期で各星系の若体儀式を観測してきたが、エネルギー転写の過剰は本人たちの判断力を軟化させるケースが多い。保護者抜きで競い合う場が与えられるのは注目すべき実験。もっとも、過敏に念波を遮断しすぎるとアイデンティティ形成に新たなリスクも生まれうる。実施後100周期の追跡調査を希望する。
いや、流体競技にまで“友情核”や自立とか…最近の流行りすぎだ!躾けと誇りは親世代の念流から伝わるものだと信じている。自己判断ばかり重視するあまり、団体性や伝統が失われないか懸念するぞ。わたしの若体時代は、親族の号令と共鳴でこそ勝利した。エルテリアの子体は耐え切れるか?
この改革には感銘を受けます。我々樹性知性でも最近、根系競技で“親根応援”をどう抑制するか議論しているところ。植物的視点からすれば、養分や情念の過度転写は、徒長や枯腐につながる場合が少なくない。オルニン星系のデータは我が連盟でも大いに参考になるでしょう。