タイニオ恒星系第4惑星メレトの海底都市「メレト・シェル」にて、近年“深海温活”と呼ばれる独自サウナ文化が大きな話題を呼んでいる。ガラスドームと海流エネルギーで構築されたこの都市に暮らす住民たちの間で、従来の温熱回復技術と異なる、極端な高水圧下での温浴法が急速に普及し始めているのだ。
メレト人・生体環境調整師のズィク・ロアル博士によれば、従来のサウナと異なり、“深海温活”は都市周辺の定置深層発熱体(デプスサーマル・セル)から非接触的に熱を伝え、住民が専用の水圧スーツを着用したまま温浴空間に入る方式を採用している。これにより外部水圧2.5メガバルからの均一な刺激が生体循環系を活性化するだけでなく、従来困難だった深部組織の代謝促進と神経ネットワークのリフレッシュを同時に実現できるようになったという。
特徴的なのは、“セルフロウリュ”(自己蒸気拡散行為)をユーザーが自在にコントロールできる点だ。メレト・シェル自治体は市民ごとにスーツ内蒸気発生装置「プラズ・ヴェイパ」を貸与し、各個人が体感温度や海水由来の微細鉱物イオン濃度をアジャストできる仕組みを導入。都市全域の公共端末から自分好みのセッティングデータを共有・交換する“ヴェイパ・ステッカー”のコレクションも新たな交流文化として発展、外出先で自慢のレシピを披露しあう光景が休憩室や岩盤スペースで定番となった。
こうした流れを背景に、“サウナ旅”も年々盛況だ。隣接都市オルファ・ドームへのテント型移動式サウナ船団“ブラーサ・キャラバン”は毎周期ごとに新コースを追加し、利用者は水圧の微細なグラデーションや天然蒸気の香り、深海特有の音響体験といった多層的癒やしを求めて巡礼のような旅に出る。新進気鋭の温浴技師ホラク・ジアネルが開発した“生体共鳴型岩盤装置”も話題で、サウナ愛好家たちの間では健康増進のみならず、メレト本来の文化的ルーツを再発見する場としての意義が強調されている。
一方、地球への観光客や交換研究員の間でも、この“深海温活”体験は注目を集めている。だが、二足歩行型生命体にとっては極端な水圧と生体浸透蒸気の刺激に順化するには特別な訓練が必要とのレポートが相次ぐ。とはいえ、メレト・シェル自治局の広報担当カナニ・スロッソルは「温活は文明を超えるコミュニケーション。新しい健康観と文化的交流のプラットフォームになるだろう」と語り、今後も異文明間での積極的な連携と体験プログラムの拡充を目指すという。温浴を通じた宇宙的な健康と交流の新時代、その潮流から目が離せない。


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