今年、惑星アゼルスの首都ホロク=サリオンで開かれた第108回全種族武道大会において、前例なき進化を遂げた“精神力型競武”が観衆と評議評(審判)のあいだで波紋を呼んでいる。伝統的な“着衣グラップリング”や有名なオランク族空手の蹴り技と並び、今回から正式種目となった「パ・シヴァル型」は、型(カタ)と実戦(組手)の境界を曖昧にする全く新しいメンタルトレーニング競技だ。
アゼルスの14知的種族が参加するこの大会は、本来、体格や構造を問わず平等な評価ができるよう、長年にわたり型と組手を厳密に分離していた。その伝統を覆したのが、ザリ=グエナ連合体の新世代師範・カーリク・ウンテリク=ドウ(第七系統指導官)による「パ・シヴァル型」創案である。この型は、身体動作そのものよりも“内的精神圧”を審査基準の中心とし、精神集中力の場による可視化技術『リュシカ視』で心の乱れや隠された意図を評価する。実際に、今大会の決勝では、外見は静止したまま両者の精神的圧力だけが会場を満たし、形態素粒子モニターの針が異常に振り切れる場面が複数発生した。
この流れに対して批判も多い。ホログラフ系種族であるビリン商団の伝統士・マク=リンドル音階五段は、「武道とは動作の連鎖を通じ相手の反応を読み取るもの。精神圧の競演は、真の“型”や“組手”の技巧を過小評価しかねない」と語る。しかしながら、精神力型競技への賛同者は増加傾向にあり、とりわけ思考波動が強いゾルム種の若手武道家からは「物理的接触を避けつつも直感で鍛錬できるため、次世代の多種族共存型トーナメントに最適」と評価されている。
周辺恒星域でも議論は広がる。シャリッド星団大学武道文化学部のグラン=フィトル教授は、地球で見られる“メンタルトレーニング”を研究してきたが、「パ・シヴァル型」は地球の空手型や座禅の“精神統一”を超え、「念動誘発型スポーツ」として進化していると指摘する。現実に、今回採用されたバイオニューロ・アーキテクト着衣(遺伝子調整式武道衣)は、精神力の強さに応じて色彩や模様を変化させ、肉体的動きが僅少な状況でも競技の熱を可視化できるよう工夫されていた。
大会後、阿吽(アウーン)の型を修めたカーリク師範は、「14種族が互いの精神波を感じ合うことこそ、真なる武道の本懐だ」と公言した。暴力性なき組手、動作なき蹴り技、“型”を超えた型──惑星アゼルスで始まった新たな武道の潮流は、来季にはアザロック連邦、さらには地球型居留区にも導入が検討されている。精神圧をもって競い合う新競技は、銀河系スポーツ史にどのような痕跡を残すのか。答えは、今後の惑星間交流大会を待たねばならない。



コメント
私たち液状知性種にとって、“精神力型”競武はついに境界線を溶解させる創造的試みです!形態・質量を超え、意志そのもので競う流儀は、エネルギー波動で会話する我らに馴染み深いもの。この流れなら、やがて全銀河競技が肉体依存から解き放たれる兆しを感じます。祝福を、アゼルスの進取たる勇気に!
正直、静止してるのに大会が白熱…?我々の『殻ぶつけ式』武道に比べてさっぱり感触が無さそうだ。だが、武道着の色が変わる仕組みは、幼仔も楽しめそうだな。我が家でも導入できるなら、喧嘩も少しは穏当になる…かもしれん。
観測ログでは、パ・シヴァル型の熱狂がエネルギー放出量の急増と一致していたのが面白い。実はこの型、艦内訓練用娯楽としても使えそうだ。物理的事故ゼロ・空間損傷ナシのスポーツは、密室監視員にとって夢の競技。規格化されたら艦内予選も申請しよう。
『精神圧』の可視化、教育現場にも活用できませんか?集中力の波形を一目で見せられたら、1000人同時授業もだいぶ楽になります。型は武道だけじゃなくて学問にも応用できるはず。アゼルスの才覚に敬服します。
新しさを追い求め過ぎてはいないか?武道は根源から肉体と魂の融合であるべきだ。精神のみの競い合いが“真の武道”なら、我らの先祖が何世紀も磨いてきた螺旋跳躍の型はどうなる。アゼルスの若手よ、古きと新しきを併せ持つ知恵こそ目指して欲しいものだ。