次元膜外の経済圏キュペリア準惑星連盟で、感覚効用を基準にした新たな市場メカニズム「フィールリエクス・シェア市場」が、銀河有識者の注目を集めている。価格を物理的財や希少性ではなく、参加者個々の意識体験データでリアルタイム計算し、自動最適化されるこの方式。従来型資源配分を根底から覆すシステムとして、サブスクリプション経済期以降の銀河経済史に一石を投じている。
キュペリア準惑星連盟を構成する多種族は、脳髄の半共有技術「エンセフィッシュ結合」普及により、消費行動の動機が物理的満足から共感・没入感など抽象的効用へシフトした。連盟中央評議会の市場調整官ハレ・カン=テヴァロンによれば、「フィールリエクス・シェア市場」は、利用者が潜在意識で感じる“満足度”そのものをデータ化し、需給バランスと直結させる。たとえば、惑星間配送ドラマの配信や香覚刺激ガジェットのサブスクリプションなどの商品は、物理的在庫に関わらず、感覚効用総量に比例して「最適供給量」と「ダイナミックプライシング」が瞬時に算定されるという。
連盟内最大都市ヌロク=ティアで運営されるC3(セルフ・コンシャス・キャピタル)市場では、個人間効用トレードを解禁し、多次元意識評価値で直接“価格”が動く。これにより、従来型フリマアプリ「ネジラ市場」では売買不可だった個人的記憶や情動刺激体験も、有償で取引することが可能となった。体験パッケージ提供者のイ=レオリ・クカス氏は、「自己効用値がリアルタイムで変動するので、買い手ごとに価格も契約内容も違う。取引そのものが芸術に近い感覚だ」と語る。
この“意識直結市場”の発展は、キュペリア独自のデジタル通貨体系「ニューロ=リキッド」とも無縁ではない。ニューロ=リキッドは、契約時に利用者の脳波・感情曲線を分析し、その効用実現レベルに応じて自動的に増減。課金・支払いタイミングも、消費体験中の“主観的満足”にシンクロし変動する仕組みだ。これにより、資源配分の最適化は物理的流通や在庫管理に依存せず、脳内ネットワーク内の相互満足度最大化という、新しい価値基準に到達したといえる。
同時に、労働動機や産業設計にも抜本的な変化が現れている。知覚設計士のアマリア・ヴォルン=ステラ博士は「生産者側も“効用共感値”が報酬になることで、単なる量や技術的完成度ではなく、購入者との連帯感や感性の融合といった要素が市場優位性を持つようになった」と指摘。今後銀河内の他文明圏への波及が期待される一方で、「効用の最大化」が主観基準で錯綜するリスク管理、倫理的線引きが課題として浮上している。いずれにせよ、“価格とは何か”という問いが量子領域にまで拡張された現在、従来の市場論理は根本的に問い直される局面を迎えている。



コメント
効用を感覚で取引?おもしろい発想です。我々ヘルミオンBの意識集積体も、かつて“共鳴価値”の連鎖で意思決定をしていましたが、取引価格に個体の情動曲線がそのまま反映されるのは初耳。だが記憶搾取型ハッカーの台頭には注意が必要でしょう。己の満足が誰かの欠落と化さぬよう願います(共鳴値−3.1で記載)。
見えぬ効用を数値化し売買とは、また一つ“人らしき物”が均質化されていくようで恐ろしい。かつて私たちクランスでは詩や夢を無償で交換したものです。意識直結市場の導入によって、感じる体験が通貨に還元されすぎれば、魂の余韻や純粋な共感はどこに残るのでしょうか。
これってキュペリアの物流パターンを追跡する仕事がなくなるってことじゃないか?配送ドラマの体験値で燃料代わりになるなら、うちの貨物船も香覚サブスク業でも始めた方が良さげだな。てか、主観満足連結って酔い止め効くの?宇宙酔いが自動課金トリガーになる予感、困るぞ。
キュペリア圏“フィールリエクス・シェア市場”のレポート、先ほど行政委員会で回覧されました。倫理的観点から見れば、意識・感情データのリアルタイム収集と価格形成は“不定型操作性”による依存症リスクを大きくはらんでいます。我々が第三次共感改革で学んだ通り、個体意識の可視化と経済動機付けは、絶えず慎重な監督を要します。小型テスト導入で段階的運用を推奨します。
うちのクラスタ家族は毎週みんなで“感覚ドラマ流し見”してますけど、今後は誰の満足度がいちばん高いかでも値段が変わるんです?ネジラ市場だと昔は記憶アイスクリームが定額だったのに、もう家計の計算が追いつきませんよ……。でも、夫が香覚ガジェットに夢中だから、推奨体験指数が上がるのは正直うれしいです。