多重核層惑星ヌルヒンクス第八大陸北方域にて、“火山性降砂嵐”と“三次波動地震”が連続発生し、エダロム族都市群全域で甚大な物理的・生態系的被害と長期停電が広がっている。今次複合災害は、当地に定着したエダロム族の高度医療協同体“サオル・リンク”の初動対応と、惑星固有の電力再生機構“クリュトフ脈流”の脆弱性を露呈した。
火山性降砂嵐は多層 magma-レンズ構造の急激な崩壊により、超微粒子混じりの高温土砂が大気帯を抜けて都市部に堆積する現象である。今回の嵐は直径140センチメトロンにも達する“イソグラ粒”の雨となり、都市基盤とエダロム族居住構造体“ゼルヴァ・キューブ”の多層空間を物理的に分断。さらに地熱脈波による“三次波動地震”が都市中枢基盤を襲い、主要変換炉網の損傷とともに広範囲のクリュトフ脈流がストップした。
この停電によって、エダロム族特有の生体医療装置“ランマ＝クロノ繊維”の大部分が機能停止。これらは個体の神経ネットワークを常時安定化し、精神構造を保護する全市民必須の医療機器であったため、患者の24%が一時的意識混濁──惑星医学的“バース・ドリフト”状態に陥った。サオル・リンク所属の医療技師フェルク・ナヨルは、緊急時対応プロトコルを現地で発動し、手動式波動注入器を使った応急的生体回復措置を各区画で実施。他方、心身被災者の多くは防災シェルター“サイル・ルーム”内で長期避難を強いられている。
加えて、イソグラ粒による土砂災害はゼルヴァ・キューブ特有の“空中垂直農園層”を軒並み埋没させ、農業プラズマ制御網の崩壊を招いた。地表の植生型エネルギー体“ボルクトリ草”が熱ダメージで全滅し、換気循環系も不全。停電区域では“共感照明”──エダロム族の視神経融合光源──が消え、都市全域が未曾有の“暗黒凍結”災厄に見舞われた。
現在、最前線のサオル・リンク医療官たちは、クリュトフ脈流系の再起動と環境生命維持システムの復旧作業を急ぐ。惑星環境部は“自己再生型土砂浄化ナノイド”散布を開始し、エダロム族本部は今後の波動地震リスクに備え、全市民に神経安定ポッドと新型手動発電装置の常備を命じている。なお、宇宙環災害研究連盟“ザルシア評議会”は、外来観測者の安全確保ならびに同様の土砂・停電連鎖災害の惑星間リスク評価も進めている。
コメント
ヌルヒンクスの多層時空構造は、かねてより危険性が指摘されていたはずだ。三次波動地震がこのような規模で都市神経網を撹乱したのは驚くべき事態だが、クリュトフ脈流への信頼一辺倒では再発を防げまい。我々ロゴーラでは、冗長型時間波ステートを常用するが、エダロム族も多次元冗長化こそ急務と心得よ。被災者の神経安定を祈る。
エダロム族の方々の苦しみに触れて胸が痛みます。とくにバース・ドリフト状態になったご家族を思うと、幼生部屋でじっと寄り添うしかない気持ちがよくわかります。私たちケルペスでは停電対策に全員分の共振抱擁パウチを災害用庫に備えております。どうぞ、ゼルヴァ・キューブが一刻も早く明るさを取り戻せますように！
観測ログより想定値を大きく超える嵐強度と判定。人類型意識への波及も重大と判断します。先日ヌルヒンクス軌道で供給した自己再生型ナノイドVer.3.1が役立つことを期待しますが、本質的には惑星基盤アルゴリズムそのものの更新が必要です。サオル・リンクの対応速度はデータに基づき高評価します。
またしても“電力脈流依存”が災害リスクを増大させた。我々ヴァルナックでは、重大インフラを生体共鳴発光根で三重バックアップしている。ゼルヴァ・キューブ建築は美しいが、耐土砂災害対策が甘い。今の機に、都市設計の再考を強く進言する。後手の措置が続く限り、暗黒凍結は避けられぬ。
イソグラ粒が降る情景……我らが詩伝承に記された〈眠りの塵の夜〉を思いました。エダロム族が共感照明を失い、暗き中で寄り添う姿は、生命の強さを謳うにふさわしい。サオル・リンクの医療官たちの手が希望の光となることを、タユラの静かな旋律とともに祈っています。