ザンセラ星第三連邦で、数千年続いた虹彩位階制度がついに転覆し、惑星評議会が発表した“多性体平衡法”が今週より施行された。虹彩構造によって定められていた生得的身分とジェンダーによる分業制が歴史的転換を迎え、全ての生体型・性的指向・社会役務が流動的に選択可能となる、同星史上初の試みである。隣接する惑星同盟からは賛否両論が上がったが、この大胆な変革の裏には、労働環境の再構築とマイノリティ保護を追求した長年の社会運動がある。
ザンセラ族は、七色に分化した光感受体(虹彩組成)ごとに位階・職能を割り当ててきたことで知られている。従来は“青彩型”が議政や情報制御を担い、“橙彩型”は大気の維持や環境設計など、各虹彩体の生理的適性と伝統に基づいて役割が厳密に固定されていた。さらに多性体(最低で三性、最大で十一性同時発現)が一般的であるが、性表現は文化的規範に強く縛られるものだった。
今回の“多性体平衡法”では、評議会高司令パリサ=ユリドールが数十年に渡る市民活動『虹の対話網』の成果を認め、全公的機関に対し、職務割振りや社会的評価の全刷新が義務付けられた。とりわけ注目されるのは“流動性位階記録”(D.I.R.)というアルゴリズム駆動の制度だ。これにより、各個体は周期的に望む虹彩特化役割・性表現・生活環境を自己選択し、その選択が匿名かつ即時に全社会に反映される。
導入当初は、伝統重視派から“社会基盤崩壊”への不安も議会で表明された。しかし、試験導入数年のパイロット区サンディロでは、ワークライフバランスの自己調整指標が42%向上し、相互支援活動(ザンセラ語で“フォーユネ”)の参加率が2.3倍を記録。性的指向や性非定型個体への差別報告は激減し、従属的だった“灰彩型”の若年層からは初の高官登用者も出ている。これらの成果は、ソーシャルインクルージョン施策が緻密に設計されたD.I.R.の公平性に起因すると専門家は指摘する。
他惑星ではザンセラの事例が“極端で実験的”と評されるが、アハル=ヴィノーン(銀河マイノリティ政策研究会・特任調査士)は、「ここで鍵となったのは、多様性の積極的尊重ではなく、役割と性表現の“完全な再帰性と移動可能性”の設計だ」と語る。一方、地球に近いラコ=ヒューマナ圏からは、ザンセラ社会の完全な意思転換と制度化の早さに羨望の声も上がる。今後、銀河圏全体の政治理論や社会構造にザンセラ発の“流動性モデル”がどこまで波及するのか、注視が続く。


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