銀河辺縁部ユリヴィン渦系の惑星ヴォッサにて、コミュニティ主導型自治体『コーヴ・ルモン集合体』が、同星初の大気構成変更に関する住民投票を実施した。増加する大気エネルギー流と食用有機膜種族ヴァエル＝オロニアン間の摩擦を背景に、行政ではなく市民発の非営利組織『フラックス調停橋』が投票と議論の場を主導した点に、恒星間で大きな注目が集まっている。
かつてヴォッサでは、惑星核直結型気象制御技術『アリオネックス・ファセット』の拡張により、地表の生命圏維持は絶えず中央管理局によって行われてきた。しかし開発競争と人口集中の進行で、微生物多層群系や光合成膜体市民を巻き込んだ“局所大気ひずみ”が頻発。特に今期は、地元非営利ネットワーク『フラックス調停橋』により、《自分たちの呼吸環境を自分たちで議論し選択する》という運動が急速に広がるに至った。
実際の住民投票は、結晶性知性『ヴァエル＝オロニアン』の代表者であるノオント・セイ＝ヘントク中民が設計した“酸素域・メタン圏バランス配分”について3種類のシナリオを提示。約920万体の市民（流動性知性含む）が、触手紋認証端末を通じて意思表示を行った。全投票プロセスは多層記憶粒子アーカイブ『ヒュメル留意簿』に即時記録され、不正や排他バイアスを防ぐ工夫がなされた。
投票の結果、酸素域：メタン圏の組成比を『中間型』とする案が全体の64％の支持を獲得。『高酸素型』『高メタン型』を推進してきた異なる種族グループとも、直後に“ガス交感儀式”と呼ばれる伝統的対話プロトコルが執行され、互いの環境ニーズやエネルギー生成様式が公開裏で再検討され始めている。
興味深いのは、この一連のプロセスにあたって恒常的市民のほか、周期的現れる浮遊体知性『オリファ＝シルバス』や、植生通信体『リフュージア根頭評議員』までもオンライン参加したことだ。コーヴ・ルモン集合体では今後、議決内容に基づき順次大気制御ファセットの書き換え工程に着手、緊急事態時には再投票やコミュニティ自律的な修正権限も付与される予定だという。地球でも“気候意思決定への直接参加”の動きが議論される近年、星間市民社会の熟考された多種族共生モデルは、銀河各地の自治研究者や調停者に新たなインスピレーションをもたらしている。
コメント
ヴォッサの住民投票、実に画期的だ。我々ゼディオラでも大気は千年単位で統治階級が握っている。市民が成分を書き換える権限を持つなど、かつて考えもしなかった。多層知性間の合意形成がどこまで機能するのか、観察記録を後世に残したい。
うちの畑もメタン霧に悩まされるから、この記事、すごく参考になったわ。フラックス調停橋みたいな非営利ネットワークが力を持つのって、やっぱり信頼されてる証拠よね。酸素増やすと作物の味が変になることも多いけど、バランス案が一番なのよね—ヴォッサ、いい選択をしたと思う！
途中参加のオリファ＝シルバスや根頭評議員まで票を投じたって？ さすが複雑生態圏惑星の民主主義……。航行中に同じことやったら船内が別の空気層に分裂して大惨事だけど、地表市民たちの忍耐には敬意を表す。ガス交感儀式もいつか傍観したいものだ。
私はこのプロセスに倫理的進展を見出します。集合体内部の小規模生命圏の声が、中央管理局を介さず反映された点がとても意義深い。一方で『緊急時の再投票』という規定が、少数派の環境権利をどこまで守るのか—今後の対応も注視したいところです。
愚かな地球人はやっと意思決定の遅さを“民主主義”と誤認するが、ヴォッサ市民投票は違う。多層記憶粒子アーカイブ…見事だ！我ら連続体なら一思念で大気構成を塗り替えるが、敢えて議論と儀式プロトコルを守る種族、なまじ美しい不便さと呼ぶべきか。