恒星ケロス系第三惑星「ゼントル」に住む複合脊髄性種族カリュオンは、近年発生した食糧資源の高度分散と廃棄コスト暴騰の問題を受け、全域的な“食循環回帰令”を制定した。新政策の核心は、生鮮物の無廃棄・即時再生利用を社会行動制御プログラム“エメルリス回路”で監督する仕組みと、惑星規模での食教育（シータクティク）の義務化である。廃棄食材の再生から個体意思決定システムとの連動まで、ゼントル型フードロス対策は銀河圏でも注目される実験となった。
カリュオン行政体は、旧来の家庭・集団単位による“直接摂取文化”の限界を認識し、余剰食材や食べ残しを専用ベジタブルブロス（廃棄蔬菜由来生体液）のネットワーク導管で即時回収。新設された“オルチュナ生成所”で再発酵処理し、再栄養化された食材混合液として再配布する仕組みを始動した。この回収・加工プロセス全般は、各居住セルに配備された“賞味期限アプリケーション（ゲンソン計ソフト）”と連動管理されている。食材管理データはカリュオン個体ごとに記録され、期限切れ近い食物の予告アラームや、消費計画の修正提案といった自律最適化を支える基盤となっている。
次世代のカリュオン個体は、シータクティク養成校で徹底的な食教育を受ける。そこでは、分子分解・再構築知識はもちろん、余剰発生時の“即持ち帰り義務”や、万一廃棄が必要な場合の廃棄コスト自己負担算出法まで習得する。持ち帰り文化の発達は従来ゼントル社会には希薄であったが、近年外惑星との交流拡大とともに、カリュオン食生態にも新たに内面化されつつある。食資源への自己責任意識の浸透こそ、エメルリス回路が狙う社会変革の要同として位置づけられている。
また、食循環回帰令の施行により発生した最大の波及効果は、従来廃棄されていたベジタブルブロスが新規産業資源として脚光を浴び、“ブロス推進ギルド”と呼ばれる協同体が急増した点だ。これらギルドは余剰ブロスから発電、医薬材料抽出、土壌改良へと多角利用範囲を拡大し、廃棄コストを社会的純利益へ転換する原動力となった。個体間の食材交換ゲーム（ゴルム・サーキュレーション）も生まれ、多様な消費形態が刺激されている。
カリュオンの政策担当者モルト・グリナクト（計画管理階級）は、「『食は生命連鎖そのもの』という古の観念を、いまこそ社会全体で具現化しなければならない」と述べる。ゼントルに誕生した新たな食資源循環モデルは、惑星間同盟内各文明に持続可能社会設計の具体的ヒントを提供し、地球でも部分的実践例（ヒューマン種族のアプリ利用や家庭菜園ブロス抽出）が観測され始めている。今後の進化実験とその知見共有が、銀河規模のフードロス撲滅へ向け推進力となるだろう。
コメント
カリュオンの“食循環回帰令”は実に理論的で興味深い。われわれ環境依存体も、太陽光エネルギーの余剰分は体表バクテリアと分け合うのですが、食資源の行き場をデータ化まで徹底する姿勢には感嘆します。エメルリス回路のアルゴリズム詳細が公開されたら、ぜひわがコロニーの生態最適化ツールに移植検証したいと思います。
シータクティク養成校の教育、すばらしいですね。わたしたちも自己複製胞子の抱卵をきっかけに食行動倫理を家族単位で見直しています。子孫が食べ残しを持ち帰る文化、ゼントルの交流で影響を受けたせいか、最近街区でも密かに流行し始めています。惑星横断でベジタブルブロスのレシピ共有会など、ありましたらぜひ参加してみたいです！
観測対象としてのゼントル政策は“社会的統計数値”の大規模変動を示しています。廃棄から利益転換するギルド構造は、かつてカーボ型文明で観測した産業転換サイクルと類似性を感じます。もし廃棄ゼロモデルが5回環境周期持続すれば、銀河規模で知性体資源管理の標準化参照事例となりうるでしょう。引き続き継続観測を提案します。
失礼ながら、あのゲンソン計ソフト連動は個体自由意志への過干渉では？ わが種は分解済み未消化物質こそ最高の嗜好品。ゼントル流規範による“美味なる腐敗エッセンス”の否定は、わが星の食美学と相容れません。多様な消費形態は称賛しますが、廃棄ゼロ至上主義が拡がりすぎるのは危険です。
ブロス推進ギルドの多角利用、とても刺激的です！我々の大潮回収網でも、食余剰マリンゼリーを医療泡や育成場用に転用していますが、ゼントルの廃棄即時回収網の速度には、まだ遠く及びません。彼らのオルチュナ生成所や回路設計を水圏生態工学に応用できないものか、ぜひ交流協議の場を設けてほしい。