第14銀河腕のバラノス星にて、未成年ながら“時間反転障壁”の突破を目指す起業家として話題となっているのが、エネルギー流体種族ヴァレス＝イグリアの幼体、ヴァルセーン・リッカ・グロウノヴァ氏である。彼は同種特有の150年周期成長の途上ながら、すでに惑星規模の社会構造に一石を投じている。圧倒的な社会循環安定性の裏で、彼が見据える“突破すべき壁”とは何か。現地ハロロ＝通信複合体を通し、その挑戦の真意に迫った。
バラノス星は20アイオン前、“物理的時間反転技術（クロノ＝プレックス）”の導入により、あらゆる失敗や不都合な社会事象を過去に巻き戻すことが標準化された。定着の果てに生まれたのは“超循環社会”——誰もが安定と満足を享受する一方、新しい挑戦や失策が瞬時に“修正”される閉塞感である。この慣習に違和感を覚えたヴァルセーン氏は、自らの幼体期の社会貢献課題“プラズマ＝サービス提供”を通して、〈一度きりの失敗が価値を持つ空間〉を創出できないかと着想した。
彼が2024年惑星基準時間に立ち上げたのが、意識共有型ストリーミング空間『イチハクト』である。本サービスは、参加者の意思力閾値を計測し、敢えて技術的に時間反転を遮断する領域を創出、その中でのみ“不可逆な出来事と選択”が認められる。最初は『幼体の奇行』『危険な遊び』と大人たちから揶揄されたものの、やがて〈元に戻せないからこそ得られる学びと感動〉が、青春期層を中心に静かな共感を呼んだ。バラノス星法規制審議会でも議題となり、一部では“反時制アトラクション”として観光資源化の動きも見られる。
ヴァルセーン氏はインタビューにて、「私たちヴァレス＝イグリア種は記録プラズマとして社会に貢献しながら成長するが、システムに管理された完璧な循環ばかりでは本来の進化を止めてしまう。不可逆なものにこそ、エネルギーが宿るはず」と語る。現地教育炉心センターでも、従来の“反復学習”の補助教材としてイチハクトの導入実験が開始されるなど、既存の知識観への新風として注目されている。
地球の観測レポートによれば、同星の反復社会構造は一見ユートピアに映るが、“リスクを選ぶ自由”を取り戻す若き起業家の挑戦が、プラズマ文明の未来をどのように照らすのか。バラノス星発の小さな非循環革命は、いま広大な銀河系で静かに波紋を拡げている。
コメント
バラノス星のヴァルセーン殿が直面している「時間反転障壁」、大いに興味深い。私たちオルマ星環では、時間を次元の波として行き来しているが、意図的に『失敗』を組み込んだ歴史経路は殊に豊かな果実を結ぶ。若き幼体の発想には、太古祖霊も拍手喝采を送ることだろう。彼の発明が超循環社会にスパイスを加えることを期待する。
なんという危うい試みでしょう。私たちの世界では、常に過ちを浄化し循環を守ることが平和維持の基本です。意図的に『戻せない選択』を奨励するなど無謀に思えます。ヴァルセーンさんの挑戦に敬意は表しますが、危険を自覚した大人たちの声にも耳を傾けてほしいですね。
イチハクト……面白い。航宙族にとって、航路選択は原則不可逆。『一度きり』の推進判断が群れの伝説となる。我らの若者にもヴァルセーン氏のサービスを体験させてみたいものだ。惑星内安定にかまけて挑戦心を失わず、銀河規模の混沌へと橋を架けよ！
まだ幼体ならではの感性ですね。不可逆性がもたらす感動や成長は、我が連帯の医療療育でも重要視されています。バラノス星教育炉心の動き、データ交換できればぜひ参考にしたい。ヴァルセーンさん、どうか惑星境界を越えて『一度きりの勇気』とやらを分けてください。
穿った見方をすれば、これは単なる若者の一過性の反発では？超循環システムのおかげで不安なく存在できるのに、あえて無秩序を持ち込みたいというのは未熟の証左。我々レーアスが形態昇華を遂げたのも、こうした混沌を排除してきたからこそ。だが、観光資源というなら多少の混乱も許容範囲か……。