グルーファ連邦領内、双面衛星ポラ＝ディアにて、歴史的な規模で市民社会の「分極化」が進行している。両半球に広がる極光帯を境に、住民たちが社会制度・価値観の二元化を強めている現象「極光分断」は、惑星全域の政治的安定を脅かす新たな地殻変動となりつつある。
惑星グルーフェストの従属衛星であるポラ＝ディアは、数千年以上にわたり進歩的（いわゆるリベラル＝オーレス派）と保守的（伝統主義＝ティナル派）の二大文化圏が共存してきた。だが、昨年発生した大気イオン層の異常化を契機に、極光帯《アーク＝エスペル》が赤青二色の明滅で急速に拡大。これにより地理的中立地だった中心都市クレオピスが、物理的・意識的な隔絶地帯となった。オーレス派市民のデリー・フロアス氏（社会進化学者）は、「アーク＝エスペルが可視化したのは、もともと存在していた“心の分断”だ」と懸念を語る。
新しい極光の下、両派の行政区は政策と価値観だけでなく、統治手法そのものを互いに「絶対悪」と捉える傾向を強めている。オーレス派は流動的な市民代表制と恒常ベーシック共有制を推進する一方、ティナル派は伝統血筋による評議会制を復活。両者の相互交流機関「調停層議会」の出席率は3年で47%低下し、極端な低投票率が全体の合意形成を妨げている。結果、共有資源プールの分配やエネルギー供給契約も数十年来の膠着状態に陥った。
浮上するのは、格差社会のさらなる深刻化だ。極光を超えての物質・情報流通は、昨年制定された『オーラ遮断令』以後ほぼ途絶。富裕層は各派の“保護都市”に籠城し、中流・下層市民の間では「どちらの社会にも属せない浮遊民（アル＝フラグ族）」が急増中だ。惑星グローブ大学のカラーニ准教授（階層流動性専門）は、「政治不信がピークに達し、誰もが『もう一つの自分』を探している状態。分極化が自我の分裂に直結している」と分析する。
衛星統治本部は、両極の極光強度を一時的に緩和させるイオンバランサー技術導入を表明したが、双方市民の「干渉拒否」感情は根強い。試験運用初日、オーレス側では大規模な抗議ストライキが発生し、ティナル側では新評議員の就任式が強行された。ポラ＝ディアの“自己分裂文明”はいま、前例なき宇宙的課題を自ら背負って進路を模索している。
コメント