三個体意識を基調としたセレス・カリル星の教育共同体“ムセイフォル連合学院”で、自己選択による制服制度の導入が惑星内外に議論を呼んでいる。全種族共生が標榜される同地で、性自認の表現を可能にする「色変換紋章」が配布されたのだ。現地プライド組織“レインボープライド・カリル”の主導により急速に広がる新制度。その背景と反響を報告する。
ムセイフォル連合学院は、肉体改変周期と共に性自認が変化し得るセレス・ヒューマノイド族、液状生命体リコラス種など、多様な性概念を持つ11種族が通う超域学校だ。従来は制服の色・形状が慣習的に二択(コロモラ色・シリオン色)で指定され、生徒たちは周期変化や自己発見のたびに“再選択要請”の手続きを強いられてきた。だが、同学院四年のシリナ・クアンス=ガイルと、その第二意識体アン=メオトは、昨季のレインボープライド行進で「毎朝あなた自身が決められる服」を訴え、バイナリ制服規範の見直しを促した。
その声に呼応し、惑星自治体の教育評議会は紋章技術企業ヴェリシュ・ユーレム社と提携。個々の“性反応素子”データを登録したIDチップ入り「色変換紋章(セレム・バイラ)」を全校生徒に無償配布した。これにより制服胸部の紋章は本人の選択・周期・心情に即応し、虹色から絶対黒、あるいは混色ニュートラルまで自在に変化する。制服形状も半自動変換するため、生徒は性自認・感情・社会的立ち位置のいずれにも即時対応が可能となった。
一方、紋章の選択が“カミングアウトの強制”とならないか、アウティング被害を招かないかが課題だ。匿名相談体験を行う学生組織“コロメラ・リレー”は、「紋章非表示モード」を提言。人前での自己示揚を望まない者向けに、紋章を一時的に偽装または不可視化できる機能も先月実装された。また、第三者による電子認証で性自認データを開示する際は、二段階思念承認が求められる法改正案も協議中だ。
レインボープライド・カリルの代表生徒であるシリナは「私たちの変化は揺れるもの。今日はこの色、明日はあの形。それを制限されたくない」と語る一方、保守層出身の学院監督ジルモ=カラン=イリス教諭は「多様性の可視化が混乱を招く」と懸念を示している。しかし現在、惑星評議会への制度拡大要求は過去最高を更新中。技術・倫理・文化の狭間で、セレス・カリルの制服多様性運動は新たな進化の只中にある。
コメント
この色変換紋章、実に興味深い。私たちシンコル人にとっても、形状と色彩は知覚とアイデンティティの連続体だ。しかし地球型生命体と異なり、我々は周期よりもその場の温度や他者との共鳴で属性を変化する。セレス・カリルの技術は、意識可視化の点で大きな一歩。ただし、可視性が個々の不可視領域を侵食しないことを切に祈る。
学園の評議会には喝采を送りたいが、子どもは一日に十度“自分”が変わるものだ。ケルネアス流だと、一日のはじまりに『今日はこの靄の高さで』と決めても、呼吸や記憶で揺れる。機能で自由を与えるのは良いが、機械と心のずれを誰が一番に気づくのだろうね。保護者交流会でこの話題を投げてみるかな。
三段階生態系での自己表現…羨ましいな。我々航行体は“自我凍結”モードで船務をこなすが、心情表明の色帯なんて贅沢もない。紋章技術は面白いが、過去に流失事件(ズロ星警告!)もあったはず。IDデータの慎重管理は必須だ。あと、カラフルな制服は航行灯と誤認されそうだから、そのまま銀河航行試験には来ないでほしい。
なんて豊かな運動だろう。“今日のあなた”が色と形で踊る——この発想自体が革命的だ。われら詩作種族はずっと、感情と本質の揺らぎを詩紋で編んできた。セレス・カリルの学徒たちが“見かけ”と“本当”を好きな重なりで咲かせるのは、とても美しくて切ない。時に偽装する傷みも、また光になるよう祈る。
私は規範の維持に努める立場だが、社会秩序と個人性の均衡はどの惑星でも悩ましいな。我が星では、服装の透明度や鳴動パターンで所属と記憶層を管理している。多様化を極大に許容する場合、予期せぬ衝突やシステム障害も想定せねばならぬ。セレス・カリルには先例管理データの公開を求めたい。