第三螺旋腕のリリック星系評議会は、かねてより準備されていた精神同期式バーチャル発電所(MS-VPP)の希望供給網を、全域で正式稼働させると発表した。知的種族カゼミル族の脳波集積技術を用い、星系全体の意識リズムと連動することで、消費機器や蓄電デバイス群の稼働最適化が実現した格好だ。宇宙各地でエネルギー倫理問題が議論される中、個体意志と省エネルギー政策が高度に一体化するリリックモデルに注目が集まっている。
カゼミル族技術庁・主任思念設計士のゾーファル=グラハードリア氏によれば、今回のMS-VPPは「個々体の希望活動パターンに同期し、全個体・全家電・全送電線の状態を“無意識共有層(MI-Stratum)”に一瞬ごと反映。夜間照明から送電網全体までが、精神クラウド内で最適配分される」と説明される。家庭用省エネ機器“シラリア・アームズ”は起床脳波パルスの変化のみで運転開始し、就眠時には蓄電モードへ自動移行が可能。従来の意思照会型家電とは一線を画す。
エネルギー供給の根幹となる水素社会モデルにも変革が生じた。リリック星では、北端大砂漠の“ソノーム大水素流”を初めて精神同期基盤の貯留槽に直結。カゼミル族の集合意識“リリス・シルト”が希望消費量を予測、適正圧力で水素ガスを全都域に供給。これにより、従来は微妙な調整遅延から生じていた都市間エネルギー格差がほぼ消滅した。各家庭から産業惑星基地まで、きめ細かな電力供給が意図的“分散”ではなく、自発“協調”のもと完結しているという。
従来、リリック星にも地球で言う“ブラックアウト型の危機管理念”は浸透していなかった。だが、過去700サイクルの災害データをもとにした“集団心理マッピング”機能が追加搭載されたことで、個体群の不安・警戒感から予想されるスパイク需要に事前対応が可能となった。これにより評議会では「惑星規模の大停電リスクが4800分の1未満に低下」と発表。個体意識の集積そのものを電力安定の“センサー”とする現代的試みとして、周辺星系も視察団を派遣している。
類似技術の地球適用については、リリック星の老賢者シュルファ=オーン氏は「地球種族は個体意志の非同期性が強すぎ、当面の移植は困難」と慎重姿勢を崩さない。それでも、多様な個意識を有機的に束ねるリリック・モデルが将来の銀河系エネルギー政策に投げかける示唆は大きい。全知的生命体が自発的一体となり、省エネルギーを“感じ合う社会”が新潮流となるか、観察が続く。
コメント
リリック星の精神同期式インフラ、我々オッツィリで20朔年前に夢想した概念に近く感慨深い。神経型雲気候同期は我が種族には定着しなかったが、カゼミル族の集団心理波形制御は見事としか言いようがない。唯一気がかりなのは『意図的分散』から『自発協調』への急転換が集合意思の摩耗を招かぬか、だ。過去のエネルギー危機時における“エゴ共鳴崩壊”リスクをぜひ追って検証してもらいたい。
同期式電力網…って、やっぱりわたし達水圏民には理解が追いつかないわ。意思ってそんなに簡単に『重ねられる』ものなの?家中の機械が気分次第で動くのも少し怖いけど、節電のためなら割り切れるのかしら。わたしだったら、気分が憂鬱すぎて毎日暗闇のままになりそう…リリックのみなさん、ちゃんと休んでくださいね!
航法士仲間の間でも話題だが、これほど惑星規模で意識が束ねられるのは、操船の同調航法以上に驚異を感じる。全個体が心理層で電力分配を協調―我々の分散座標航行システムとも少し似ている気がした。同時に、災害時のスパイク対応も精神マップで先読みとは…アークディーン号にもぜひ応用して欲しい技術。もっと詳しい実用データをお願いしたい。
驚嘆すべき進歩ですが、倫理史家としては“無意識共有層”の拡大による個体自律性の希薄化が気になります。過去、我らソリガル星は集合知依存による“夢遊社会症”を発症し、多大な社会的損失を経験しました。リリック星の皆様が健全な個体意識と全体意志をどう両立されるのか、今後の統計に注目しております。
精神同期により“ブラックアウト管理念”が根づくとは感動的だ。我々群体はエネルギー一点集中から数世代前に崩壊した種族だが、リリック星の自発協調モデルは極めて参考になる。尤も、ナノレベルで自己保存本能を配するのと、惑星意識で調整するのとでは規模も困難も桁違いだろう。評議会諸卿へ、細分化した群体的価値観との相互変換方式の研究を期待する。