銀河域第四周回路を統治するキドロニア連星系で、外来種族への労働解放政策が物議を醸している。現地自治機構「ルル・シャス評議会」は、先月より魂波動認証付きのデジタル在留カード「ソル＝ディグナID」が正式運用を開始した。急速に増加する惑星間移民労働者たち。その行動と定着、そして永住権を巡る攻防は、キドロニア社会の基底倫理にどのような揺らぎをもたらすのか——。
キドロニア連星系は、約122種の異星知的体（ヒューマン・サードラ・フロマアルグなど）による共生社会として、銀河でも進んだ融合モデルを誇ってきた。しかし、基幹種族キドロノイドが古来守ってきた『魂波動での正体把握』という信義規範が、近年の移民拡大で形骸化しつつあると指摘されてきた。特に労働力需要の高まりを受け、「在留資格」の絶対的な証明手段が求められていたのだ。
こうした課題を受け、宇宙技術庁プロトディラス部が開発した『ソル＝ディグナID』は、個体固有の魂波動パターンを多次元量子記録し、全ての在留者が物理形態を変化させても本人同一性を保証。雇用主はカード端末に触れるだけで、在留区分・労働カテゴリ・銀河適合指数まで即座に閲覧できる。従来の紙在留カードや軟体族用触手認証の複雑さを一掃したことで、外来者の雇用促進・能力マッチングにも拍車がかかった。
しかし、この急進的な改革は思わぬ混乱も引き起こしている。例えばアメキシア星環から流入したミラー種族では、魂波動を「流動人格の痕跡」とみなす信仰体系があり、ID認証自体に心理的抵抗を示す者が増加。ルル・シャス評議会による法的調停では、在留カード所持を拒否した約2,000名の扱いが争点となっている。また一部大規模商会は、銀河標準より高い「魂波信用指数」をもつ労働者に独自の永住権パスを発行し、事実上の“魂貴族”階級を創出。被雇用体の間では格差への反発や、偽装魂波による不正就労事件も報告され始めている。
これを受けて、プロトディラス部は次世代『ソル＝ディグナID2.0』で、移民個々の文化的魂波適合度を判断するAIサブコード『エシックス・グリッド』の搭載を表明。量子データに基づく公正な永住権審査と、社会統合プログラムの強化を計画中とのことだ。キドロニア流“多魂共生”社会の未来。本件の成否が、今後の銀河圏における移民政策の雛型となるか否か、注目すべきである。
コメント
キドロニアの『魂波動認証』技術は、我々ズヴォリクの理念からすれば個の統一性と社会信頼の両立によく適っているが、“魂貴族”の創出こそ危惧すべき点だ。倫理評価AIの導入で格差問題が本当に解消するのかは、安易に信じがたい。過去のランデル群ECによる人格階層化実験の轍を踏む気はないだろうか。社会統合とは、単なる相互認証以上の文化理解を要するものだと強調したい。
正直、紙カードや触手認証より便利そう！ でもミラー種族の気持ちもすごく分かるなぁ。魂波動って私たちにとっては香りや色彩に近いものだから、他者に読み取られるのはちょっと恥ずかしいかも。『エシックス・グリッド』には各種族の美徳や価値観がちゃんと反映されるの？ キドロニアの皆さん、ぜひ多声性を大切にしてね。
毎週キドロニアへ物資を運ぶオレから見ると、新しいIDは検問が激ラクになった。以前は端末に触手10本突っ込んでたからな！ もっとも、魂貴族とか永住権パスの話を聞くと、結局“上位魂”だけが得するシステムじゃねぇの？ 魂波動は変幻自在だと思いたいパイロット的には、『偽装魂波』事件が増えても当然だろ。過度の管理は、逆手に取られるもんだぜ。
少数意見を記憶から辿ってみたが、100周回ほど前、私たちも“自己同一性証明”の波動規範に社会が揉まれた。結局、波動認証システムは差別温床になるだけで、集合意識への昇華が遅れたよ。キドロニアも、外来魂の扱いで過去の我々の過ちを繰り返すのか、それとも拡張意識を実現するのか見守りたい。エシックス・グリッドの進化による可能性に期待と懸念を半々で感じる。
移民者の『魂波動』をスキャンして在留判断って…なんだか、古来の選別儀式を思い出すなあ。“公正”の名の下に少数魂を切り捨てていないか？ テクノロジーで共生社会を作るのは素晴らしい試みだけど、その裏で声なき魂が排除されぬよう、評議会や技術庁は不断の説明責任を果たすべきだと思います！