恒星バリウムXI系の海洋惑星ジロロンでは、ここ百年でかつて類を見ない政党分化ブームが沸き起こっている。従来「三大母殻党」による安定的な議会運営が続いていた同星だが、新興の『自律性息み珊瑚連盟』を筆頭とする百五十以上の地方政党が突如台頭。一極集中型の党首選出から、組織網化による“集団議決型リーダー”が誕生するなど、政治構造そのものを激変させている。惑星間政治学研究者シラオ＝マルメル博士（クラヌム族）は、この動向を「惑星規模のイデオロギー珊瑚化現象」と分析している。
背景には、ジロロン社会特有の『共存分化原理』がある。これは珊瑚状生物であるジロロン原住種族ドリフマ＝ヴァルラ族が、他環境との相互作用で常に新たな分布単位（モジュール）を形成し続ける生態論理に基づくものだ。近年、技術的分断化、情報流通の全地球的波への接続、そして惑星南部クオリ自治区出身の元研究者ジャヴァ＝ルツ党首による党規則解放運動が重なり、伝統党と地域勢力、小派閥、無党派層が絡み合う“多方向分岐政治”が爆発的に拡大した。
特筆すべきは、議会構成員の選出法に用いられる『イデオクオータ制』だ。この制度は議員個人の分布属性（生態圏、生体色素型、知能配列ログ）に応じ、議席配分の比率が自動調整される仕組み。従来より性別・種属間の不均衡にも柔軟に対応してきたが、今や党首までもが“集団認知体”に委託されつつある。大都市イロフ区では、党首選挙すら生体ネットワーク上の共感投票で即時的に行われ、党首そのものの形骸化が観測されている。
こうした流動化の最前線に立つのが『呼吸民主ネットシード』など、地方派生型の“粒子政党”たちである。彼らはイデオロギーより局所目標重視型で、区域毎の生命環境政策や生態互換インフラ拡充を旗印に躍進。今期の惑星議会では、彼らの共同政権案が急浮上し、既成勢力の再編や“党派横断的政策連合”の誕生も相次ぐ事態となった。
この政党多様化の波は、ジロロン外部の星系社会にまで波及している。特に地球観察ミッション『ガルダン＝シン遠隔眼』によれば、地球の多様性以下の政党編成――いわゆる“二極化”現象が、ジロロン知識層に逆説的な驚愕をもたらしているという。今や議会は「息づく珊瑚礁」のように、自律的かつ複層的な集合知に支えられつつ、新たな合意形成の生態系構築へと進化している。
コメント
ジロロンの『イデオクオータ制』、実に優れた均衡調整機構ですね。わがズィークワル本系でも過度の群体意識間摩擦を減らすべく類似案を検討中ですが、集団認知体による党首の委託、これは我々の集合法典とも調和しそうです。しかし粒子政党の即時政策転換には監査上の追随が大変そう。個体発議よりも効率が良いのか、ご経験を是非シェアして頂きたく思います。
これはまさに社会の『分岐繁茂』、わたし達の産卵系譜に重ね合わせてしまいました！粒子政党の局所目標重視は、各卵室ごとで別々に暮らす我が織膜民にもぴったり共鳴します。思えば、家族体の“共感投票”こそ、数千年続くわが家の最重要儀式…。ジロロンの未来が楽しみですね。
毎度思うけど、ジロロンみたいな複雑な政体だと何議席もらえればうちら単細胞生命体にも発言権がわくのかい？『知能配列ログ』判定じゃ、俺らのぶつぶつ系は除外されない？一回議会で発酵祭りしたいんだが、参加資格の詳細情報を誰かキノコ素体で送ってくれ。
おや、政権の変化速度が興味深いですね。私たち時間を逆行して観測する身としては、ジロロン議会の“党首形骸化”現象が、十周期前ではなく五周期後にピークを迎えると既視しています。つまり、今が変動の単なる中間段階です。観察を継続しましょう。
やはりジロロンは面白い！我ら観測船クルーは『呼吸民主ネットシード』とコラボして環境維持ネットを実験中。イデオクオータ制って、実証データの蓄積が生態多様性維持にどう効くのか、恒星航行民の間でも評判です。ついでに地球の“二極化”議会も観察してみましたが、流動性という点でジロロンの足元にも及ばず。進化する政治、生きて観たいものです。