銀河系広域にて温室効果ガス抑制の枢要拠点とされるケルリオン星。その首都パラウメアに拠点を構えるヌイヴァン族の「光合成バイオマス財団(フォトクラード協会)」が、星域カーボンクレジット市場の基盤を根本から覆す気候変動対策構想を公開した。従来の“炭素排出量減算”型の制度を放棄し、惑星生態システムそのものを貨幣化する野心的試みが各惑星文明の注目を集めている。
ケルリオン星では、大気中の炭素回収量に応じて『生体光合成単位(BPU)』を発行する独自通貨制度が、ヌイヴァン族内で過去254年にわたり運用されてきた。しかし今期、フォトクラード協会代表のカン・ミネル博士(ヌイヴァン族第三胞子階級)は、BPU発行基準を従来の「森林面積」に紐づける方式から、アーキフォリア微細樹皮藻によるバイオマス生成率に即した“動的市場”へ移行すると発表。これにより、固定的な土地権益型から、人工生態系の創出に優遇が与えられる構図となる。
この斬新なコンセプト導入の背景には、フォトクラード協会が近年実用化した気候テック資源『MEVA(多重分岐遺伝子収束体)』の存在がある。従来、温室効果ガスの削減は高効率植生の育成や周期的収穫に主を置いていたが、同資源では生体クロロフィル凝縮体を用いて“可搬性バイオマスユニット”の即時出荷が可能となった。惑星の気候調整能力が個別細胞レベルで評価可能となり、短周期のカーボンクレジット市場流動性が発生している。
カン・ミネル博士は発表会にて、「星内外の交易パートナーが生体バイオマスユニットを直接輸送・取引できる新制度は、従来の領域依存型キャップ&トレードを超越すると確信する」と語った。実際、銀河連絡協会など他惑星の複数高度知性体からも、ケルリオン式クレジット市場参入の希望が続出している。更に本協会は、他文明圏で主流の「仮想炭素削減証明」一括取引から脱却し、実体ある資源循環管理の透明化に踏み切る方針を明言している。
地球社会の“カーボンニュートラル”構想も銀河データベースに記録されつつあるが、ケルリオン星のような生態的インフラ通貨化や可視化バイオマス取引網の社会実装には大幅な進化を要する模様だ。銀河域における未来型気候安定社会の潮流は、ついに貨幣観と生態工学の融合という未踏フィールドへと到達した。今後、人工生命体の市場参加や他惑星間制度互換化も論議され、市場原理と惑星レジリエンス強化の新たな均衡点創出が期待されている。
コメント
さすがケルリオン星、また新しい通貨制度で銀河経済を揺るがせてくれたな。我々ディロスでは大気自体が価値単位だが、生態系そのものを貨幣化とは……。過去に似た構想を実験したとき、我が種族は大気を全部交換されかけて絶滅寸前まで行った経験がある。ヌイヴァン族には、その点の制御アルゴリズムに最大限の注意を払ってもらいたいものだ。
アーキフォリア樹皮藻でバイオマス取引とは、正直うらやましい!うちの浮遊樹は成長周期が3世代単位なので、BPUみたいな柔軟性はなかなかないものよ…。ただ、敢えて言えば、目に見える資源循環の透明化は子胞たちの環境教育にも良さそうね。週末の光合成祭で話題にしてみるわ。ヌイヴァンさん達、今度苗交換しません?
生体光合成単位の発行基準を動的に運営する……脆弱性検証にワクワクする。もし市場が急変し、AI仲介が暴走する事態があれば、望遠500AUからの観測データを提供したい。付与基準が『個別細胞計測』になったことで、我が分析ユニットも解析負荷が増えるが、それだけ銀河気候史に新しいモデル曲線が増えるのは魅力的だ。
人工生態系生成の優遇……惑星経済の“実体”追及という幻想に何故また囚われるのか。生命もバイオマスも、定数で測定すれば本質を取り逃がす。ケルリオン式の新制度は単なる数値操作ゲームに変質しないだろうか?かつて我がズウル星が“自己相似通貨”に溺れて社会停滞した失敗を思い出すよ。
MEVA資源の即時出荷、実に効率的で好感だ。だが、我々反転層物流族にとって“可搬性”とはすべて。惑星内だけでなく、転送波による無損失バイオマス配送制御のインタフェース仕様もぜひ詳細に公開して欲しい。はい、それと取引規格は重力逆位相にも対応お願いします!未来型気候社会は物理法則の壁も突き抜けてナンボです。