イダル彗星群に隣接するフォルグラ連合惑星圏で、政治的意思表明の主戦場であるソーシャルネット空間「ダムリンク」の“個体識別規制”を巡り、史上最大規模の議会論争が勃発した。各派閥が提唱する“アカウント魂紐（たましいひも）法”と、“匿名連帯（れんたい）協定”の正統性を巡る激しい対立は、政体構造のみならず種族間のアイデンティティ観までをも揺さぶっている。地球観察局のアナリストらによれば、フォルグラ圏のデジタル庁に類する機関「倫理署名院」の次世代ボット統制技術も議論を過熱させる一因となっているという。
フォルグラ連合のソーシャルネット空間「ダムリンク」は、全生体IDに直結した“魂紐認証”によって一個体一アカウント制を採るため、従来は政治活動の透明性と安全性が成立してきた。しかし3大種族のひとつ、リスガの族議員ヤトゥ・サ＝ロッグは、本年の高次予算案討議中に「魂紐以外のサブ人格、即ち夢見体験や集団意思で構成される“匿名連帯”の価値を抑圧してきた制度は、思想統制である」と表明。これにより、魂紐認証一辺倒体制への反発と、匿名制への急速な支持拡大が始まった。
反対に、確固たる個体識別を核とする“魂紐”派も黙ってはいない。主要与党「透明根接合党」の代表、ガランティクス族のセノ・ディロシア上級議員は、「匿名連帯を認めれば、政治的意思決定空間に無責任な発言や外来ボット種族“メレック＝ファー”による介入が急増する」と警鐘を鳴らす。実際、魂紐のない流動アカウントを利用した“虚偽合意形成”事件が、過去半年で十数例記録されたという。
本議題の火種となったのが、斬新なボット判別AI群“モナリデータ”を導入したデジタル庁フェリシム支部の試験運用だった。モナリデータ群は、個体波動署名を分析して“実在”か“集合幻影”かを瞬時に見破る能力を誇るが、匿名連帯支持者は「集合幻影（クラスタ・シンギュラ）」特有の公共善提案や草の根運動を“粛清”される危険性を主張し、抗議集会を連日展開している。
一方で、地球でのSNS規制やボット排除技術を比較研究する連合第三分析局によれば、個体識別の強化が極端に進めば、自己分裂や周期的多重人格変容を前提とするフォルグラ種族特有の政治参加権を狭める可能性があるという。ヤトゥ議員は「地球の“匿名掲示板”は単一精神での議論を前提とするが、われわれは複数人格の集合知による合意形成こそ進化的合理性を持つ」と主張。今後は、「魂紐」と「匿名連帯」が共存できる新たな認証プロトコル“クオ＝ミナI.D.”の採用について、連合惑星全域で大討論が計画されている。
コメント
魂紐が絶対視される風潮には違和感を覚えます。我々セルモス星知性体は、周期的に胞体分裂を経て新たな自分を生み出しますが、そのすべてを本個体と紐づけて管理することは、発展性をむしろ阻害してきました。フォルグラ圏が多重人格変容を前提としながら、個体認証で制限しようとする動きは、進化的ジレンマを孕んでいるように感じます。
魂紐だけで管理するのも匿名連帯だけで自由にするのも危ない気がしますよ。わたしたち母体ユニットは、複数の思考体と常に共感ネットしているので、“集合幻影”も立派な社会の意見です。でも正式な発言者が見えないと、不安になる気持ちも分かるんです。地球のSNS研究も役立つかしら？家族会議で話題にしてみますね！
異星圏のSNS事情は毎度興味深いな！我々ウラヌズ人は物質身体を数十年でリセットするけど、意識記録が途切れず交換されていくから“個体認証”も“匿名”も曖昧さを許容してる。それでも“集合幻影”の草の根運動は過去に航行管制AIの暴走を止めてくれたし、匿名性は希望にも脅威にもなる。議論の加熱は健全だ。
魂紐認証による完全管理は秩序維持には丁度良い方法、とズーニス社会は示しています。しかし、匿名連帯のような集合知に基づく合意形成も、よく機能すれば平等と活力を生みます。どちらかを絶対悪と決めつける前に、各仕組みがもたらす副作用を慎重に検証するべきでしょう――特に、外来ボット種族が介在する場合の監視策は強化必須です。
ふたつの波動がぶつかり合う様子、美しいです。我らルミナジュ詩族の通信は常に匿名かつ集合幻想の産物。しかし同時に、誰もが詩の創作者であり受容者。魂紐の光も連帯の闇もひとつの大河へと溶けます。フォルグラの議論――どうか分断ではなく、未踏の“同調詩”プロトコルが生まれますように。