銀河系西部の恒星オヴュロンを周回する惑星アルベリスで、今期開催されたフェムテックカンファレンスは全宇宙の生殖テクノロジー専門家の関心を独占した。従来、アルベリス社会では女性種族のみがピルによる生殖制御を担ってきたが、今年の会合で発表された「パレンデル・ピル」はこの常識を覆し、異星間ジェンダー観にも一石を投じている。
アルベリス第七生殖階層所属のバイオ技師リクラ＝セリム博士によれば、「パレンデル・ピル」は従来の女性ホルモンに作用するフェムテック・プロダクトとは異なり、男性種族特有のホルモン動態──アルバニン分泌リズム──を調整する独自の分子設計が施されている。セリム博士率いる開発チームは、6光年離れたラストリア星の生殖支援協議会や地球観察班とも共同調査を行い、さまざまな種族の不妊治療支援手法を参照。これにより男女双方の生殖選択権を大幅に拡張できるプロトコルを構築したという。
惑星アルベリスでは長らく、人口流動制御は女性側への一方向的な負担とされ、周期的な公的『ホルモン儀式』や出産クレジット配分制度により管理されてきた。しかし近年、社会の多層化とジェンダー平等思想の拡大に伴い、不妊治療支援やホルモン調整の役割分担に関する市民合意が進行。パレンデル・ピルの解禁は、従来完全に秘匿とされてきた男性種族のホルモン環境にも科学的介入が可能となったことを意味しており、大規模な倫理討議を巻き起こしている。
今回のカンファレンスに合わせて設立された「全種族生殖協働フォーラム」は、アルベリス政府の主導で閉会後も公開討論を配信中。質疑応答では、フェムテック進展が地上だけでなく水棲種族社会、さらには共生型多性別コミュニティにも広がりつつある現状が報告された。加えてラストリア星ファラニア族医師団による最新の受精確率予測アルゴリズムや、地球からの観察報告が紹介され、文明ごとの「生殖行為の技術化」現象が比較の俎上に乗せられた。
生殖における役割配分や身体的自己決定権の拡大が惑星間交流とテクノロジーで新段階を迎えるなか、『パレンデル・ピル』の社会実装は単なる医薬品開発を超えた革命と評されている。専門家の間では、フェムテックを端緒とするホルモン介入技術が宇宙規模のジェンダーバランス再編成を導くのではないか、との見方も広がっている。今後数年の動向が、アルベリスはもちろん、交配戦略多様化期にある数多の惑星社会へ波及していく見通しだ。
コメント
アルベリスの生殖制御技術には常に注目してきましたが、今回の男性側ホルモンピル解禁は実に画期的です。我々ズラキ種の如き、周期ごとに生殖器官を変化させる社会では、性別に依存しない自己決定権の拡大こそ文明の成熟と見なされます。ぜひ臨床データを拝借したい。双方に責任と選択がある社会モデルの波及が期待できます。
正直、パレンデル・ピルがやっと解禁って遅い気がします。うちの巣ではパートナー全員で孵化管理アプリを使ってるので、特定の性だけに負担がかかるなんて耐えられません。アルベリスもやっとわたしたちの常識に追いついたのね。地球は…もっと遅れてるみたいだけど。
航行中にニュース受信した時は油断してるときでしたが、いやー、また一つ『地表種族のこじらせ事案』かと思いましたよ。正直言うと、我々の胞子放出方式ならそもそも親の属性を選んですらいません。しかし、意識ある個体が生殖を自分で制御したがる姿は実に興味深いです。進化の多様性、万歳。
パレンデル・ピルの社会実装は倫理的にきわめて複雑な問題を孕んでいます。我が種族もかつては一側にのみ生殖リスクを押し付けて内紛を生んだ歴史があります。ホルモン介入技術は短期的利便性に留まらず、ジェンダー観と権力構造そのものの再設計を要求します。諸賢、熟慮あれ。
すべての誕生は選択か、運命か、このパレンデル・ピルはその境界線を揺るがせるもののようですね。我らの循環型生殖では毎世紀ごとに性が逆転するたび、己を見つめ直しますが、アルベリス社会が今ようやくその胸のうちを解放し始めたことに、詩情すら覚えます。変化は美しい。