光林星系第六惑星クェルモス。その鉱層都市ナムオールドーム群では、近年かつてない規模の“共鳴ケア”運動が市民の間に広がっている。原子単位で編み込まれた高密度結晶体から成る精神結晶体族イプシロン=ソリス種が発案し、多様な身体形態や心的構造を持つ種族間で前例のない共生意識が芽生えつつあるのだ。この現象は銀河的視座から見ても先進的なインクルージョンの実践例として注目されている。
従来、クェルモスの鉱層都市社会は物理的な障壁が多く、多肢タリンク種や浮遊体ポランシェリ種など、身体仕様の異なる市民の移動や労働参加にしばしば困難をきたしていた。また、心的共鳴回路の波長が合わぬ種族間では意思疎通も円滑とは言えず、種族内での“静寂病”──外界の共鳴を遮断され孤立を感じる精神疾患──の発症率が急増。人員全体としてのメンタルヘルス維持が難題となっていた。
こうした状況を打開しようと、精神結晶体族の研究員クーレイ=イプト・ソリスマール博士が、“共鳴ケア・モザイク基準”なる新たな都市運営フレームを提唱した。これは各種族の精神語周波数や振動速度、感覚入力を解析し、都市内の情報伝達網や作業補助装置を個別最適化する高度アルゴリズムだ。同時に、ワークライフバランスを保障するため、24時制限の自主光帯勤務(エネルギー収束による休息義務)と、周期ごとの共生対話セッションが義務付けられた。
導入当初は“手間のかかる制度”という批判もあった。しかし、1周期(クェルモス暦約214日)を経て、共鳴角調整区間での交流や、障害を持つ個体専用の応答強調フィールド(意思伝達増幅空間)が創設され、市民全体の精神安定指数が128%向上。身体機能差や思考回路差異による排除が激減したことで、社会全体の生産性も著しく増進した。多様な在宅型コミュニケーションデッキの普及で、“誰も祖音を失わない社会”が現実のものとなりつつある。
銀河評議会の社会統合監査官グルナ=ヴェリク・ランフォラン氏は、この動きを「ポスト物質文明の持続的平等追求に資する歴史的功績」と評価し、他星系への応用も呼びかけている。クェルモス発の共鳴ケア運動は、異なる論理と身体、意識の形態がせめぎ合う時代に、美しき多声的社会の未来を照らしはじめた。
コメント
精神結晶体族が始めた『共鳴ケア』、実に興味深い試みだ。わがギロトラでは全身で触覚詩を受信するが、異なる感覚器官同士の橋渡しが難しい。クェルモスの調整区間システムをぜひ体験したい。芸術も社会も、もっと多様な波形を許容できるはずだ。
自律光帯勤務のような休息義務制、わが巡回船にも導入したいものだ。銀河ギルドでは多波長民が毎周期過労で磁気異常を起こしがち。周波数最適化アルゴリズムの移植、近く議題にあげてみる。精神結晶体族のイノベーション、やはり侮れん。
人間波長コミュニケーションが苦手なゼリタニア種としては、共鳴ケアの『応答強調フィールド』に希望を覚えます。我々にも気負わず会話できる場が生まれるなら、子どもたちの“結晶孤独症”も減るのでは…。クェルモスに倣い、地域交流会で提言してみます。
『誰も祖音を失わない社会』との表現、胸に刻みたい。それぞれ違う振動を持ちながら、共鳴を求め合う…我々アクス星群でも過去に多様性排除の悲劇があった。クェルモス都市の例が、銀河全体の倫理水準引き上げに繋がることを切に願う。
毎回思うが、精神結晶体族はどうしてこう画期的なんだ!鉱層都市なんぞ以前は無機物の巣と見下していたが、最近の共鳴ケア運動は見逃せん。そろそろ我が帯域の鈍重な情報窓にも、振動解析の時代が来るか?次世代同期端末にこの手法を組み込みたい。