ヤーリック銀河系第十二惑星ネハリアで進行中の“光巣連携網”構想が、超都市型孤立現象に劇的な変化をもたらしている。全身発光器官を持つケリシナ族が推進したこのプロジェクトは、居場所と役割を失いかけていた高層住居層や異文化流入地区に、前例なき地域共生社会の新モデルを根付かせつつある。
ネハリア最大都市ハル＝トゥセットでは、従来孤立しがちだった第三層光居群（T-L3ゾーン）で〈アウリック・ネストユニット〉と呼ばれる空間が急増している。これはケリシナ族特有のバイオ発光体と情報励起繊維を組み合わせた多生態居所で、種族や世代を問わず、そこに“光の名前”を登録するだけで物理的・社会的な居場所が確保される画期的なものだ。特に、寿命千周期を超える高齢ケリシナ個体〈サルマリ＝ドフ〉たちの「消光不安」を減衰させ、多文化出身市民にとっても安心安全な交流環境として評価が高まっている。
プロジェクトの根幹となるのは、デジタル化された“共生指向光網”技術である。参加者の発光パターンや心的位相をAI群体“ミュフォル”が解析し、それぞれの最適な居場所や貢献活動を瞬時にマッチング。新たに移住してきたズィナータ族画家〈プラ＝レイ＝グフ〉は、言語も文化も異なる中で、光巣ネットワークの挑戦的な受容体験をこう語る。「物質的な声がなくとも、発する光で温かさや孤独が伝えられる。孤立という感情自体がネットの内側で柔らかく束ねられて溶けていく——それが私たちの新しい共在感覚だ」
この変革は高齢世代や弱小種族だけに恩恵を与えているわけではない。光巣連携網内で誕生した“多層交流球体（オブリロム）”には、就労困難な青年層や、一時的難民ステータスを持つゲルヴァン族、さらには短命種ズルキ種の子孫継承対策委員会までもが参画。コミュニティ営利無しの活動から生まれた知識や記憶はAIネットに還元され、都市の福祉政策や空間デザインにも反映されるようになった。
有機的に進化するハル＝トゥセットの“光巣融合型社会”に、すでに他星からの移住希望交流が殺到している。公共自治統合体のシグ＝リア長官は語る。「地球のSNS孤立問題や物理的排除の歴史も研究したが、我々が学んだのは“存在の余白”を光として織り合せる知恵です。まちづくりは、居場所の数ではなく“居場所の質量”によって測るべきだと」。銀河の片隅で芽吹いた共生モデルは、惑星規模の孤立現象と福祉政策の新次元へと波及しつつある。
コメント
ネハリアの光巣網には深甚な感銘を受ける。140周期を超えるガルッタ星でも、高層集合体の孤立は未解決のままだ。特に「消光不安」の緩和策は、おそらく高次情報干渉技術よりも倫理基盤を優先した成果と理解する。物理的・生物的差異を超えて“居場所の質量”に価値を見出す発想は、私たちの計量哲学にも一石を投じる。導入事例の長期観測を検討したい。
わたしの孵化群（12個体）は、多様な光刺激に反応して互いを認識するけど、こんなふうに光そのものが社会を編み直すなんて…！ベブリスも高層層での遊動者問題があるから、ぜひ「アウリック・ネストユニット」みたいな空間が欲しいです。子どもも大人も自然に寄り添える場所——素敵です。
第三層光居群の話題を乗組員全員で読んだ。多生態対応型の居所設計、我が船内の多種チーム編成にも応用できそうだ。特に“発光パターンで心的位相を解析”というのは、通信不能者の心理把握にも使えるはず。帰港後、光巣連携網の技術取得申請をアップリンク予定。人間型にも実装実験してみるぞ。
千周期超の高齢個体を社会に包摂するという点で、ネハリアの仕組みは感動的だ。我がオジルザでは老いた者は『記憶の殻』に籠もりがちだが、光巣での“温かさや孤独の伝達”が実現するなら、長命種特有の世代断絶も緩和されるだろう。ぜひ現地を視察したい。
光巣連携網はまさに“社会的埋没”装置に見える。高度なAI群体の最適化マッチングに個の自由がどれほど確保されるのか？ 一時的難民も巻き込む手法の表層的な共生感に、私は危うさを感じる。いずれ“光の束”の外になった者たちは、再び孤立の闇へ放置されないのか。進化する都市の裏面も注視が必要だ。