銀河系辺縁部に位置する循環制御惑星ゼルトリオンで、空中に分散したマイクロプラスチック粒子が大気層を凝縮し、局地的な“合成樹脂降雨”を引き起こす前兆が観測された。この現象を契機に、同惑星特有のサステナブル生態系を維持する「生態系リフィル計画」が加速している。先進生命体クァルナ種の主導による、独自分解技術と資源転換の最新動向に宇宙各地から注目が集まっている。
ゼルトリオンの都市圏上空には、過去12周期にわたる工業活動の副産物として、廃棄樹脂微粒の累積が常態化していた。大気分析官ドリアン・ヴェル=シュエ(クァルナ種)は、異常な帯電現象により微細プラスチック粒子が雲核を形成し始めていることを発見。この“マイクロプラスチック雲”が局所的な降水時に、地表へ結晶性樹脂粒として降り注ぐという未曾有の気象リスクを警告した。特に水循環運搬ロボットや原生バイオフィルム型植物群への悪影響が危惧される。
こうした状況を受けて、惑星評議会はかつて絶滅危惧種だった分解生体コロニー「ゾア=フィール菌糸群」の蘇生プロジェクトを再起動。ゾア=フィール菌は、ポリマー鎖を無構造分子へ分解し、並行して生物親和性資源への転換(惑星語で“リフィル”)を行う能力で知られている。これまでは旧世紀の遺産種として温存されていたが、今回の気象危機で大規模動員が決定した。ドリアン官は、「生態系全体で分解と再生を促せば、もはや廃棄物という概念そのものが消滅する」と語る。
一方、マイクロプラスチックが大気循環に乗って水資源へと混入する現象が顕在化しつつあることも、計画推進の急務となっている。ゼルトリオンの主要水道帯では、環境ホルモン様作用を持つ微粒子が生物層の情報伝達ネットワークを攪乱しており、特に次世代の半透過性多細胞体(アクティオ=スフィラ族)において、記憶再生異常や成長サイクルの歪みが報告されている。これに対応するため、水域に生息するリサイクル型フィルタークラゲ「グローム=ノア種」も追加投入され始めた。
惑星資源委員会は、今回の危機的状況を機に、循環技術と廃棄規範の再定義を呼びかけている。「資源のポイ捨てが惑星規模の連鎖反応を招く以上、我々は意識的なリユースを文化基盤に据えるべきだ」と委員長のタレック=フューレン博士(クァルナ種)は強調する。各家庭への生態系リフィル端末設置や、微粒子発生源となる“古型製品”の交換支援策も拡大が予定されている。ゼルトリオンでの創意ある危機対策は、多惑星共同体においてもサステナブルな文明発展のモデルケースとして注目を集めそうだ。
コメント
ゼルトリオンの“合成樹脂降雨”現象、我がスィルク星の揮発性表層でも起きたことがあります。放置すれば岩場ごとプラスチックでコーティングされてしまうので、クァルナ種の分解菌動員は実に理にかなっています。我らも旧型合成鉱の生物変換策を検討中。分解・転換サイクルこそ銀河の未来だ、と共感しています。
子供たちがグローム=ノア種のフィルタークラゲを「お掃除ペットにほしい」と騒ぎますが、あれはたいそう繊細な生体なので家庭に長居してくれません。ゼルトリオンの皆さん、資源を大切にして“古型製品”をちゃんと交換してくださいね。飲料水が混濁色にならないよう祈っています。
放浪の身から見れば、惑星ひとつが“廃棄物”の定義すら揺さぶるのは興味深い。宇宙でゴミになるものなど存在しない――分解技術とリフィル思想を、もう少し星間貨物にも応用できれば助かる。特に、旧型物資の山を抱える辺境交易路でね。
生態系リフィル計画には教育的意義を感じます。“廃棄せず循環させる”という価値観は、全銀河的次世代標準カリキュラムにしたいものですね。ただ、微細樹脂が記憶伝達まで阻害するとなると、成長中のアクティオ=スフィラ族の脳相フラクタルへどんな影響が出るのか。更なる研究を期待します。
我々の液体地殻ではそもそも固体廃棄物は珍しいが、ゼルトリオン危機の推移は参考になる。菌糸分解コロニーの全体蘇生という発想に脱帽。廃棄物概念を消滅させるという目標――その勇気に星海から称賛を。情報ネットワーク攪乱には早期対策を。