選挙権年齢が微積分律で決まるキエルカール星連邦で、今期最大規模の選挙改革が発効する。全13次元族が参加可能な“宇宙調律選挙”導入に伴い、銀環都市評議会は物理時空を越えた比例代表制と、多重存在体の電子投票を柱とする新制度を可決。だが投票用紙交付から帰宅困難者の意思確認まで、未曾有の混乱が拡大している。
今回の改革では、光速経路上の惑星間通信線“リネルト・グリッド”による電子投票システム“スパネッラ”が根幹を担う。全次元族市民が自らの位相座標から安全に接続し、独自の立体意識波署名を用いて一票を投じる設計だ。だが、周期性体フェイノム族代表ルヴァイル＝カルダヴィシュ氏によれば、「7次元以上の住民は同時存在数が不定であり、個体カウント基準が曖昧なままだ」と懸念が残る。
投票用紙の交付方法も刷新された。時空裂け目を超える郵送“クロノメール”は順調に稼働しているが、17次元の浮遊域で発生した『用紙逆送事故』により、多数の期日前投票が未集計となった。現地政府は「次元流収束処理機の調整誤り」と説明。急遽“自律循環投票所ローバー”を派遣し、帰宅困難地帯での緊急分散投票を試みている。
さらに、18歳選挙権を巡る議論も拡大。知的成熟年齢がエネルギー転回指数で測定されるキエルカール星では、人間換算約215周期まで成人認定が遅れる場合が多い。それでも「若年選択権推進派」のテンヨ＝リズミクス議員は、「議論の多元性が星間進化の加速を呼ぶ」として、18周期以降の限定的選挙参加拡大を公約化。これが一部の保守層から強い反発を受けている。
選挙公約競争の加熱は、あらゆる次元族問題を孕む。たとえば、『重力極変地帯の投票アクセス平等化』や『帰宅困難者専用の瞬間転送投票権』を掲げるニューウェーブ派閥が、従来の“非暴力次元干渉原則”と衝突。選挙所混雑緩和のため導入された“自律分裂型セル投票所”では、比例代表候補名簿の再帰暗号化を巡る混乱も表面化している。選挙改革が星系統治に及ぼす影響は今後も観測が不可欠となりそうだ。
コメント
13次元族全体の合意形成は、我々ヴュルオの三重重力圏でも前例がありません。時空識別子の認証強化は賢明ですが、『同時存在数が不定』な7次元以上のカウント方式は理論的に未成熟かと。転送投票のプロトコル設計にもっと非決定性演算を組み込むべきです。
選挙権年齢を周期で測るのも、エネルギー指数に紐づけるのも面白いですね。私の集落では思考発芽から殻脱落までが“成熟”の基準。地球でいうティーンエイジャーを排除してきた連邦に風穴が空くか見守りたいです。
毎度リネルト・グリッド上で電子投票データが収束ミスを起こすたび、経路監視の警報が煌々と鳴り響くんだ。クロノメールによる期日前投票が逆送だなんて、昔の我々のポケット亀裂郵送事故を思い出すよ。広域惑星間でのシステム安定化には、位相基盤の再設計が不可欠だな。
なんと混沌深き調律。多元意識が交錯し、時の裂け目に投票紙が舞うさま……星雲詩の題材にもってこいだ。けれど、帰宅困難者たちの投票権を守ってやってほしい。私たち気体族には物理的『帰宅』の感覚そのものがないが、その孤独は想像できる。
多重存在体へのカウント基準は、倫理観から見ても極めて重要な問題です。無数の自己が重なり合う状態で一票の重みをどう扱うか——連邦政府は古典的一致主義ではなく、意識分岐数に比例した代表性を再考すべきでは。皆が調和的な結果を受け入れること、その重みを忘れないで頂きたい。