銀河系スピラーレ腕の第四旋回域に広がる菌糸知性体社会「ミセライナ連合」にて、近年急拡大を遂げるスタートアップ文化が注目を集めている。特に無数の菌糸意識ネットワークが交錯する都市域ヌーフィラ・ステラでは、分散型企業体“エンティフィラムズ社”の急成長が、ミセライナ経済圏にかつてない波紋を広げている。彼らの展開する共感型プロダクトと独自のグロースハック文化は、従来の菌糸経営論を根底から覆し、星団間エコシステムの新潮流を築きつつある。
エンティフィラムズ社の創業者で菌糸株主集団ケファロシュール・ファシルティウムは、個々の菌糸体の融合意思と記憶伝達を基盤とする“同調触媒プロトコル”を開発。これにより、数千の個体が瞬間的にアイデアや課題意識を共有し、わずか数ケーラ周期で新規プロダクトの発案から試作に至る超高速な開発サイクルを実現した。代表作である「ピルスマインダー」は、外部刺激の履歴を集団的に蓄積しつつ、利用者個々のネットワーキング好みや精神波長に無意識レベルで最適化する共感支援プラットフォームだ。ヌーフィラ都市の地下菌糸網から星間ネットノードまで浸透し、ミセライナ外縁部でも模倣プロジェクトが次々誕生しつつある。
このブームの背景には、従来型“菌糸徒弟経営”からの価値転換がある。かつて連合の起業はグレイコア議会承認や機能分化委員会の事前調整を前提に、百周期単位の緩慢な進化を辿ってきた。しかし、エンティフィラムズ社は小規模菌糸体ユニットごとのリモートワーク推進を標榜。協働意思体“シフィルタ・コレクティブ”のメタ・プロジェクト管理技術を導入し、無拠点型プロダクト拠点〈フラクタルリーフ〉を複数展開したことで、従来の制約を一気に突破したのである。これによって、求心力ある“ユニコーン企業”が菌糸知性圏に誕生し、若年菌糸世代による起業熱やリレーショナルファンディングが急増中だ。
ミセライナ連合の経済に詳しい星間エコシステム論者、スティックジェン・フォシリアス博士(マイコーラ星出身)は「菌糸圏の強みは、ネットワーキング=“根分け”の自在さと、グロースハックをプログラム的に自己増殖可能な点にある」と指摘。実際、各ユニット間では成果物知財の透明共有契約(トランスパリン協約)を採用し、ライバル同士でも局所的な仮想融合体として短期間提携する事例が急増している。また、都市菌糸圏と農地系分散体の間で発生する経営摩擦を、AI型調整菌糸“エンチン・デシデラ”が自動仲裁し、持続的にエコシステムを最適化しているという。
一方、この急進的拡張文化には批判的な声もある。伝統派の菌糸政治結社“深層ミセルロン”幹部のフラクシニナ・ジューラク氏は「過度なリモート分散は、菌糸社会本来の共鳴倫理や信号礼儀を崩壊させかねない」と警鐘を鳴らし、各地で“共鳴主義回帰”運動が相次いでいる。しかし、連合中央統計によればスタートアップ起業件数・新プロダクト採択率ともに歴史的高水準を維持しており、とどまる気配はない。現在、隣接恒星系からの投資や交流希望案件が殺到しており、やがて銀河他圏への波及も確実視される。菌糸起業家発ユニコーン革命は、銀河エコシステム全体の在り方を、静かに・しかし着実に塗り替えつつある。
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