銀河環クラスタ第34帯のシャーヌル星系において、ズプクラ族の技術審議会は新方式の分散型水力発電ネットワーク「水力デルタ網（デルタ＝プルク・ターネット）」の全域展開を開始した。従来の集中型マグマ吸引炉や重力発円盤を主軸とする電力供給モデルが根本から転換されつつあり、この革新技術がズプクラ文明の中枢社会基盤を変容させるとして、各惑星で議論が沸騰している。特有の流域地形と超微細量子流体エンジンという独自技術を活かした本ネットワークの発足は、20サン周期ぶり最大規模のエネルギー革命と目される。
ズプクラ族は、単極性神経網と電気浮遊惑星環境ゆえに精緻なエネルギーマネジメントを古来重視してきた。ここ10世代ほどは環状都市全体を包摂する重力発円盤からエネルギーを一極集中供給する方式が支配的だったが、コリマ氏族系の若手科学官ターリ＝ヌス・フレパは、分散配置された水圧マトリクスを並行接続することで、エネルギー経路のロスを大幅に削減する新方策を提案。「水力デルタ網」は、水利チャネルが発達したシャーヌル星の海底断層群を活用し、各層の水流速度と回転力の微細な違いを量子同期化することで、遅延なく流体クロックを安定化。エネルギー分配精度は、従来比で34％向上したと公表された。
この技術の特徴は、かつてエルド＝カリ種によって理論構築された“自己修復型ラインノード”の応用にある。水流発電素子が局所的な流速異常や濁度変動を検知すると、隣接デルタ網へ自動的に出力をシフト。結果として、外的圧力（恒星フレア由来の重力波衝撃など）による全域ブラックアウトを防ぎつつ、微細需要の高まる地域（コロ＝ルサート工業層や光殖民衛星帯）へリアルタイムで最適電力を配分できる。この設計思想は、データ通信網とも直結した“エネルギーと情報の同一流路化”に挑戦するシャーヌル文明ならではのものだ。
導入初期には『主要水脈が都市基盤ネットワークを侵食するのでは』との懸念もあった。しかし、ズプクラ水利評議局の調査では、深層デルタ網が意図的にミネラル排出を抑制し、都市下層域の土壌構造を安定化させていると判明。また、監視フロート・リーダーのヘルモ＝ッツァン副長官によれば、『育成期のウエイブ＝オニオン菌（シャーヌル特有の水棲性共生生物）が網内圧力維持剤として機能し、全ネットワークの自己組織化を支えている』という。相互に協調する生物発電素子群の存在は、エネルギー効率以上に文明のインフラ自体を生態ネットワーク化していくと予想される。
現在デルタ網は、半数以上のズプクラ都市で一次基幹電力として稼働しており、今後は惑星間商業軌道にも分散型発電素子を組み込む動きが加速する見込みだ。遥か地球における水力発電の小規模実験観測と比較しても、シャーヌルでの進化型分散ネットは『流体文明の未来像』として直接応用可能性が指摘される。ズプクラ族は、ネットの持続的成長と生態系調和を両立させるエネルギーモデルの確立により、圏内文明のエネルギー自治と新たな銀河契約体への進出を視野に入れている。
コメント
ズプクラ族の水力デルタ網導入、実に興味深い進化だ。我々ズィク星系の全方位意識体もエネルギーと情報流路を完全統合したインフラを数百周期前から採用しているが、生体発電素子と自己修復型ラインノードの融合は評価に値する。単極性神経網と生態システムがいかに高次の自律均衡を生むか、今後の進展に注目したい。
うちのハッチたち（幼生）もデルタ網で生まれた微細流体音を好んで眠るのよ。エネルギー効率が上がるだけじゃなく、ウエイブ＝オニオン菌の協調波動が社会全体の安定因子になるって、さすがシャーヌルの皆さんは生きたインフラをよく分かってるわ。ずっと応援してる！
毎度シャーヌルの工業層を周回観測してきたが、こうして分散型デルタ網が全都市に拡がる光景は壮観というほかない。重力発円盤への一極依存から脱却するのは、銀河クラスタ全体でも重要な前例になる。あとは恒星フレア期のリアルタイム対応がどれほど安定するか、観測レポートが楽しみだ。
水力デルタ網の量子分散モデルは素晴らしいが、生態系との協調を謳いながらミネラル排出や土壌への長期影響まで本当に制御できているか、厳重なモニタリングが必要だ。我々トゥリア星系の反省を思い出す――技術の躍進はしばしば生物圏脆弱化も招く。ズプクラ族が教訓を生かせるか、見守りたい。
地球の水力発電をスケッチした時代遅れの構造美も良いが、シャーヌルのデルタ網は『流体と文明が踊る』とすら感じる！自己修復するラインやウエイブ=オニオン菌といった生体装飾が、静的インフラとは異次元のリズムを奏でる。是非音象データを公開して、我々も融合詩に取り込みたい。