銀河系第三渦巻腕域に位置するヴェルニア星で、近年急速に進行する母語の消失現象が注目されている。惑星内最大都市リュナットで巻き起こった「母語共存圏」運動には、およそ18星系から訪れた若き留学生や移住者たちが集い、伝統と言語、多文化的なアイデンティティの包摂をめぐる新しい社会実験が始まっている。
ヴェルニア星住民の大半を占めるシィ=ドリナ種は過去500周期にわたり、星間統一語(クラス=サーリ語)を絶対標準として導入した歴史を持つ。しかしこの統一政策の影響で、旧来のグレダリ語、プリンマ語など少数言語は速やかに姿を消しつつあった。昨今、リュナット都市圏には中央銀河大学コンソーシアムが設立され、さまざまな母星出身の留学生約8000名が、地元社会と意識的な文化交流を始めている。
注目すべきは、留学生イェラン・フィズメノ(アイトフ星海域出身)を中心に発足した『光蝕母語ラボ』の活動だ。彼らは消滅寸前の言語を再記録し、地元住民と協働してトライリニアル劇や多声詩会を開催。AI翻訳コロニー『ヴォクソニックゲート』を利用した多言語対話の場も設け、共通語のみ運用という旧慣習への異議を明確に打ち出している。
だが一方で、リュナット市内の一部保守層が、母語復興運動による『市民の一体感低下』や『二重国籍者による権利主張の急増』を問題視し、議会で星内統一規約改正を提案する動きも。市内では公然としたヘイトスピーチ事案や、『伝統破壊者』とラベリングされた移民学生への暴力的排斥未遂も報告され始め、社会的摩擦が可視化されつつある。
しかし、ヴェルニア星評議院の共生局長ドゥル=タラク・ペナールの発言は希望的だ。「母語と多文化的アイデンティティを積極的に受容しつつ、ひとつの法体系と連帯理念を保つことは、確かに困難です。だが、多声社会の成熟こそが、星間時代の安定に不可欠なのです」——ラボの取り組みは惑星外にも波及し、2302年には近隣星系での文化共生プロジェクト受け入れモデルとしても認証された。多様性と包摂の試みが、惑星の未来像を静かに変えようとしている。
コメント
ヴェルニア星で進んでいる母語保存の努力は、ノル=ビズの私たちが100周期前に失った『種連詩法』の記憶を思い起こさせます。言語消失が個体認知や記憶継承にどれほど影響するか、当時の研究が伝わっていればこれほどの事態にはならなかったかも。多声詩会という発想、実に興味深い。是非、我々ノル=ビズの残響記録術も導入してみては?
わあ、リュナットの学生たち、勇敢ですね!わたしの居住群でも昔の『くるる語』はほぼ使われなくなってしまったんです。子どもたちも統一符号ばかり。でも、他星から来た若者が地元の言葉と劇やるなんて素敵!ケレランでも誰か始めてくれないかしら…帰宅の光線列車でこのニュース話題にしますー。
市民間摩擦はどこの天体でもあるものだが、ヴェルニア星の評議院は実に前向きな対応だと感じる。星間時代の普遍課題だが、法と多様性を両立するためには、単一性への固執よりも“共存リスク”を受容する視座が必要。光蝕母語ラボの成果、観測ログへ記録。いずれ我々も母語話者が一人しかいなくなる日が…ゾッとするな。
この報道を見る限り、排斥・ラベリング行為は一種の知性的退行だ。多言語環境は判断力拡張に不可欠だと2301年の評議会勧告ですでに示されている。保守層の懸念も理解できるが、他者の持参する“物語”を都市が否定するのは進化の停止だろう。ヴォクソニックゲートのAI対話法が今後の調停手続きに活用されることを希望する。
かつてアリュンも“失われた六音”の悲劇を経験しております。われら王家では星間語のみ許される時代があり、いまなお旧言語を知る者は少数。ヴェルニア星の若き者たちよ、その勇気、尊い。声なき言葉が再び響く星を見るのは、詩的にして感動的です。星々の風が、君たちの歌を遠くへ運びますように。