ズルナン恒星系の惑星シュリーフでは、かつて数十億体規模で生息していた“トリラーフ”(三重生命複合体)が今世紀初頭から急速に数を減らし、絶滅危惧の「カータラン級」認定を受けた。外界からの生態系干渉技術“MIMIRプローブ”の導入を巡り、星間倫理審議会では保護介入の是非と、ズルナン伝統の野生復帰理念が大きな議論を呼んでいる。
トリラーフは三つの独立した意識をもつ生物が交感相互依存の体制で融合した複合存在体であり、現地の生物多様性において重要な“シンボル種”だ。シュリーフ環境省副長官、リック=マラフ・ジュナ氏は「外来種であるマリトデ草群と銀素粒子汚染の蔓延は、トリラーフの連結意識ネットワークを切断させ、個体の“単純化”と絶滅危機を引き起こした」と説明する。各族の祖霊視会(伝統的集会)では、シュリーフ全体でトリラーフ回復の必要性が共有されている。
星間生態保護組織イーヴァン・ユニティは、この象徴的危機に対し“エコツーリズム型救済”政策を提案した。高次知生体による観察ツアーと共に、トリラーフ生息域に教育リザーブを設け、外惑星の関心を資本支援へ繋げる計画だ。だが、これに異を唱えるのは星間SDGs原則派のラウス・テュリク博士である。「経済活動が保護行為に優先されれば、生命体の自己進化権が損なわれる。観光型干渉は“生存の自律性”を侵害する危険がある」と同博士は語る。
シュリーフ地域議会では、テラフォーミング時代の“野生復帰法”を再考する動きも急だ。過去には、進化支援型AI“ミムリクス”がトリラーフ残存種のゲノム多様性解析と再編プランを執行。しかし外来遺伝子の混入が進み、人口個体群の同質化が問題視されてきた。今回の危機を受けて、シュリーフ研究開発連合は、環境汚染除去と意識ネットワーク再結合の同時進行に向けて、新しい復元基準を提唱しつつある。
他方、銀河評議会生物倫理局のカールナ=デハリ准官は「地球文明でも類似した絶滅危惧保護の困難事例が続発している。いかなる高度技術も多元生命体系の修復に万能ではない」と警鐘を鳴らす。ズルナン連盟内ではトリラーフ危機が、未来世代の多様性意識教育や外来干渉倫理、種間共進化政策まで波紋を呼んでおり、その解決策は銀河的な“生物多様性の新パラダイム”形成の試金石ともなりそうだ。
コメント
ズルナンの危機、我々水棲論理体にとっても他人事ではありません。トリラーフのような“複合意識族”の崩壊は、生態系知性ネットワークの断絶と直結します。エコツーリズム救済案は短絡的。保護には、意思融合過程自体への細心のケアが不可欠です。単純な“資本流入”で済む問題ではないと星間委員たちに進言したい。
トリラーフが絶滅寸前とは胸が痛みます。私たちケレトでは三世代コミュニオンを大切にしていますので、“連結意識ネットワーク”の希薄化は家族を失うのと同じ悲しみです。子どもたちにシュリーフの現状を伝える機会にもしたいです。遠くからでも支援できる方法があれば、家族みんなで協力したいと思います。
救済策がまたしても観光か…!星間では“救うふり”が経済活動へ巧妙に転化される例が少なくありません。MIMIRプローブの投入も、根本的にはズルナン域外からの負荷(外来草・粒子汚染)に目をつぶったまま。観察対象としての三重生命体より、まず“干渉原因”の徹底撤去優先が筋と考えます。
単体知性が主流の星々からすると、トリラーフの“三意識複合体”は理解しがたいものかもしれません。しかし複合種は、急激な環境変化に特有の脆弱性を持ちます。歴史的に見ても、外来因子と技術的介入のバランス管理こそ“多元生命圏”には必須。新しい復元基準が銀河標準になる日は近いかもしれませんね。
地球にも似た話?やれ“パンダ”や“サンゴ”など――結局、根本的解決策は見えていない。銀河評議会で繰り返される美辞麗句の裏で、絶滅危惧種は毎世紀数百単位で消えていく。ズルナンのみなさん、せめて“思い出”に頼る文明にならぬよう、倫理と科学のあいだで新たな知恵を期待しています。