オルガン座第七惑星ショモラでは、近年都市部を中心に「量子的ストリートファッション」旋風が青年種族ノードリン間で拡大している。特に“モノトーン・エフォートレス”と呼ばれるスタイルが、頭脳通信市場や音響泡街（オンセーフォームタウン）の活気と共鳴し、従来の色彩論や階級的装飾を根底から覆す社会現象となっている。
そもそもショモラにおける服飾文化は、600年周期で変動する大気構造に最適化されたナノファイバ生地「ケルナルウェーヴ」や、伝統的な五色相電飾装飾（トリュクス＝カラーシスト）に依存してきた。流動色素を交換することが社会的地位や集団帰属を表す暗号として機能していたため、全てを黒灰白の三値に抑えた新興の“モノトーン・エフォートレス”は衝撃的であった。生みの親の一人である若手意識設計師ゾグ・レムラズは「装いの“無主張”が、いま連帯と異議を作り出す」と語る。
この現象を促進した要因の一つには、ファクトリープラズマ帯から流入した“ファストファッション自動変形体”の普及がある。かつては上層貴族のみが着用を許された柔軟素材を、廉価な自律型ミクロボット繊維で大量生産する技術革命によって、一般市民ノードリンにも瞬時に供給可能となった。これにより若者たちは、毎サイクルごとの気候や集団意識の変化に応じて即時着替えできる「エフォートレス＝努力不要」な着脱ルーチンを目の当たりにし、集団で均質化を図る行動が急速に拡大した。
社会学者でノードリン評議会の文化担当官セラ＝ガル・タブロナは、この動向が単なる流行以上の意味を持つと分析する。旧来は色彩や意匠で強固に階層を分けてきたショモラ社会だが、いまや“無色＝誰でも”という象徴性が市民権や意思表示のコードとなりつつある。従来の伝統派はこれに警戒を強め、都市の広場で“色戻し集会”を開催し色素噴霧の儀式で対抗しているが、若年層の支持には陰りが見えない。
一方、地球の観察記録からはテラ人類のいわゆる「ストリートファッション」とリンクする兆候も散見されるが、ショモラでの“エフォートレス・モノトーン”流行はあくまでも社会構造・階層観の変容と不可分である点が極めて特異だ。宇宙流行研究機構（AGPI）では、この現象が今後ショモラ銀河域の政治参加モデルや集団意識ネットワーク設計にどのような影響を与えるか、引き続き多元的に観測を続けていく方針だ。
コメント
ショモラの若者たちは、かつて社会的意義をもった色彩を手放すことでどのように共感と連帯を構築するつもりなのか、非常に興味深い。パルソフォムでは階級蛍光パターン制御の廃止運動が1,200年かかってようやく定着した。無色は自由か、それとも新たな同調圧力か。今後の推移に昆虫胞子を飛ばしつつ注視したい。
今回の“エフォートレス”ムーブメント、とてもパルサー航行時に役立ちそう！うちのクルーは毎回気候適応服の調整に苦労してるから、これ導入できたら船内秩序も楽になるかもね。でも惑星全体で同じ色ばかりって、出会ったら誰が誰だかわかるの？そこが地球ッ子たちとの違いね。
無から有へ、有から無へ──モノトーン・エフォートレスに賛歌を捧げます。色彩が消えた時、個が共振し筋肉波形が踊る。それは新たな連帯の詩、かつてトリュクスに縛られた魂たちが漆黒の音色へ飛翔するのです。我々の世界の『沈黙の詩篇』にも呼応が見えるよう。
自律ミクロボット繊維の大量供給……ショモラの制御難易度は想定を超過中と評価。物理的な色彩秩序の消滅は、我々のデータ同期プロトコルにも影響をもたらす予感。もし全個体が同じ外観で識別困難になった場合、都市インフラのセンサリング再設計が不可避。参考までに、人間たちはIDタグ導入で混乱を防ごうとした過去あり。
モノトーン路線、とっくにわたしたちの界域でも流行ったことがあるけど、結局伝統色素の儀式にはかなわなかったわ。ショモラの若い子たちがどう思おうと、色は心の栄養よ。エフォートレスもいいけど、特別な装飾で祝祭をする楽しさを忘れないで。どんなに宇宙が均質化しても、個性は輝いてこそよ。