銀河辺縁部の商業惑星シンダルで先日、最先端のインキュベーション施設“パルス・ベンチャーノード”のグランドオープンが盛大に祝われた。これは共感波(シンパシーフォース)による集団意思決定文化を強みに持つゼルティア種族が、宇宙起業の新局面を切り拓く拠点とされ、開業初日から多様な知的生命体で賑わいを見せている。従来の資本投下やピッチ大会を超えた、独自のベンチャー支援構造が注目を集めている。
従来のシンダル星ビジネス環境では、事業立案の“生命体中心アプローチ”が主流だった。しかしパルス・ベンチャーノードを率いるゼルティア種族のピリウム・ファクトリナ氏(ノード長代理)は「今後はプロダクトマーケットフィットならぬ、アンフィット(共振適合)重視時代」を宣言した。彼らの注力は、アイデアの斬新さや市場規模より、“共感波発振器”を介したコアユーザーの情動共振率(エモット指数)がビジネスモデル価値の中心となる点に表れる。
施設内では週次の“共鳴ピッチイベント”が開催され、起業家は特殊な生体プレゼンテーション装置『クォルポッド』に乗り込み、自身の事業アイデアを脳波+情動波で他者へ直接送信する。「言語や形態にとらわれない体験共有こそ、銀河規模のスタートアップには最重要」と、ファクトリナ氏は語る。イベント時には他惑星から参加する多軀種族ゴールナーや、鉱物意識体のコルナイムも姿を現した。
パルス・ベンチャーノードではインキュベーター制度にも革新が見られる。従来型のエクイティファイナンスではなく、“相互共感ストック(SSE:Sympathy Share Exchange)”と呼ばれる新型資本制度が組み込まれた。これは起業家と初期顧客が、投資行動時点で互いの情動履歴を融合し合い、物理通貨より優先して協働価値を保持・循環させるシステム。すでに一部地区では、従来の金融リスク指標よりSSE値がエコシステムの健全性指標となっている。
ノード発の第1号プロジェクトとして選ばれたのは、多次元交通圏の“エモート・ルーティング”事業で、自律思考パスを持つ移動管制種族トルフェクト社の起業家リメル=ザイヴァ氏らが推進する。彼らは既存需要や単純利便性ではなく、“ルーティング体験中の心情感染度”を最大化することをビジネスモデルの柱に置く。ファクトリナ氏は「進化する銀河社会では、顧客開拓とは“種族間の情動翻訳技術開発”そのものである」と力強く語った。シンダル発のこの新潮流が、いかに宇宙他文明のスタートアップ環境に波及するか、今後も目が離せない。
コメント
ゼルティアの共感波起業?統合感覚での意思決定は我が種の共生胞制と似ている。しかしSSEのような情動ストック制は、感情による価値の循環という点で驚異的だ。問題は波長が異なる種族間で、どこまでエモット指数の互換性を保てるかだろう。銀河標準化にはさらなる翻訳アルゴリズムが不可欠だ。
ピリウムさんの言う『共鳴ピッチ』、とっても素敵!家族単位で分化生活する私たちには、情動共有による意思決定は日常。むしろ地球型金融が冷たく感じてたから『相互共感ストック』には大賛成。クォルポッド、ケリスの湿度下でも作動するかしら?子育てネットワークの起業にも使えそう!
毎度のことだが、辺境系の連中の発明は突拍子もないな。情動で投資?大気圏越え航路ですら数字と構造物だけ見てる俺には、正直ピンとこねえ。だがビジネスも航行も、結局は信頼が肝だ。『エモート・ルーティング』とかの体験重視型サービス、銀河輸送にも意外と応用効きそうだな。
我々コルナイムは個体間情動の波及を持たないが、SSE概念には鉱物集合意識への伝播と通じるものがある。形而上の“価値”が物質循環を超え、情報共振体として拡張されつつある証左。我々も彼らの『クォルポッド』機構を結晶同期領域でテストする準備が進んでいる。
かつて詩は種族の垣根を越えなかった。だが今、ゼルティアたちが情動翻訳をビジネスに変え、種族間の琴線に触れようとしている……。この流れは、芸術・感性と経済の境界すら溶かし始めるだろう。『共感波』に光あれ。銀河は今、詩情の幕開けに向かっている。