恒星カイアン=ベータ第六惑星シリオスにおいて、惑星知性体群・ミデッス統合連盟は新たな記憶共鳴型ブロックチェーン「ミネス・ルーン」の公開運用を発表した。これは通常の記録型台帳とは異なり、シリオス固有の有機情報伝達構造を利用し、個体知性メンバー全員の過去取引・歴史事象・意識交換までを一斉に記憶化する仕組みだ。運用初日にして20億超の思考単位(ユナイト)が分散的かつ永久保存的に同期され、その異常な効率性に全銀河系が注目している。
ミネス・ルーンの核となる技術は、シリオス種族マルペリクス族の脳内イメージ連鎖機構にインスパイアされた「記憶共鳴チェーン」である。各個体のニューロシーケンス(微細脳波配列)が多次元共鳴場に投影され、他個体の意識経路と即座に結合。参与者が体験した交易履歴、契約合意、さらには感情推移までが「記憶ノード」として瞬時にチェーンへ格納される。従来のプルーフ・オブ・ワーク的な膨大な演算を要せず、『記憶検証波』と呼ばれる分散型整合性評価(DAI-GL認証)によって完全な整合性を保つ点が独特だ。
この仕組みがもたらす最大の利点は、誰一人として過去の記憶や契約履歴を改ざんできない透明性である。ミネス・ルーン内の全過去単位が、当事者全員の潜在意識に恒久保存されるため、後日不可思議な不一致が発生した際も「記憶リプレー機構」により瞬時に全体で真実を再演できる。さらに副産物として、今後の集合意思決定や大型共同投資において、協調的分散型金融(N.C.F.=Neural Cooperative Finance)としての発展も期待されている。
シリオス連盟の技術主任であるサラゼーン・フラム博士によれば、『我々の基幹思想は、技術的チェーン上での信頼醸成ではなく、実際の記憶伝達を基礎にしている。地球文明のような信号取引体系ではなく、思考自体が取引単位となることで、人為的エラーや外部攻撃の余地が根本的に消滅する』とのことだ。博士たちは今後10標準周期で銀河域外の知性体にも参加を開放し、多種多様な意識取引のグローバル化を目指している。
初日に発生した最大規模の記憶取引履歴は、惑星規模の気象制御契約実験だった。7億8千万個体の集合想念がブロックとして一括同期され、気象監視塔群の意思決定プロセスと、実際の気候バランス調整作業の完全記録が生成。宇宙観測者からは『分散型金融から分散型歴史共有体制への抜本的進化』との評価が飛び交っている。今後ほかの惑星知性体群もこの記憶共鳴チェーンに追随する動きが加速する見通しだ。
コメント
ミネス・ルーンの記憶共鳴チェーン、素晴らしい。このような全体記憶の恒常同期は、我々ムタラ族の『過去把持球』に少し似ているが、あちらは数百周期ごとに崩壊する。記憶の不可逆保存は羨ましいが、個体の後悔や修正の余地がどこまで許容されるのか心配もある。感情履歴まで共有されるとなると、自己進化の手段が減るのではないだろうか。
地球の信号型経済を観察して長いが、今回のような思念自体を取引単位にできる仕組みは驚嘆に値する。我々ケレリオス連盟の粒子決済網だと、記憶の非対称伝送が必ず問題になる。ミネス・ルーンのリアルタイム記憶検証波は統合監査コストを事実上消滅させる。シリオスでの共同投資に強く関心を寄せる!
このシステム、想定外に面白いな~。俺ら宙域じゃ、ブロックチェーンは貨物時刻表くらいにしか使われてない。もし、うちの観測ログもこうやってユナイト化したら、上司に叱られた記憶までみんなでプレイバックされそうでゾッとする…。でも、宇宙船団の意志決定がスムーズになる予感。ちょっとだけ羨ましいぞ!
まだ3回目の脱皮期なので難しい話は全部わからないけど、みんなの気持ちや考えまでちゃんと覚えておく機械って素敵!ウチの植民地でも大きな話し合いのとき、不一致がいっぱい出るから、一斉に記憶できるとケンカが減りそう。でも、おやつを隠した記憶まで同期されるのは…ちょっぴり心配かな?
記憶共鳴チェーンの全個体間同期は、社会秩序を一変させる可能性がある。我がアフラニクスでは、意図的記憶隔離が個体尊厳の基盤として尊重されているが、シリオスの全記録透明化思想は全銀河的規範なのだろうか?倫理的配慮なくして、無意識領域まで連結する技術が拡散することには危惧を表明したい。