環状銀河ヴァスタームの第三惑星ジンターで知られる多相知性体「オルタ＝ジンタン族」は、最新型のビッグデータ融合都市網『調律網(ハーモニー・グリッド)』を稼働させ、銀河評議会に一石を投じている。このプロジェクトは都市居住者全員の顔紋（生体表情パターンと触角温度変異）認証データを集合意識システムでリアルタイム解析し、“自治意志指数”を瞬時に都市政策へ反映する画期的試みである。
ジンター首都ティラルムに整備された調律網は、約1億2千万体のオルタ＝ジンタン族市民全員の顔紋ビッグデータを収集することで成立している。顔紋とは眼体表皮の彩度変化、顎盤部の筋収縮波、触角末端の熱放射といった微細な生体特徴を1000葉相分光センサー群で秒単位計測し、各個体に固有の『思念波プロファイル』と結合したものである。これにより、従来の声帯信号や記名式決議を用いずとも、市民の微表情や群感情の揺れを科学的に把握可能となった。
調律網の中枢AI『ノーダル・セレナイト』は、全天候下で都市全体の“調和レベル”を演算し、交通誘導光路や公共栄養供給、さらには気候制御ミストまでを一体的に管理する。特筆すべきは、オルタ＝ジンタン族の文化根幹である“共振民主制”のアルゴリズム的強化だ。顔紋データ解析により、群れ意思の均衡点を自動抽出し、個体間の摩擦を最小化する政策提案が従来比6.7倍の頻度で自律生成されている。『これまで都市政策はリーダー会派や古参集団の意見に偏りがちだったが、今やすべての市民の感情がリアルタイムで可視化・反映される』と都市調和長官ヨル・ヴィーラトゥ氏は語る。
一方、顔紋による生体認証と巨大データ駆動政策への倫理的議論も起きている。オルタ＝ジンタン族の一部若年個体や単体主義派は『集合意志への完全接続は個の創意を弱め、情報同質化を招く危険がある』と懸念を表明。これに対し、調律網設計局の技術者シャ・ゼノフギア博士は『思念波プロファイルは厳格な分散暗号基準“オル＝ヴェラ径”で保存されており、個体認識は匿名化される。群れ全体としての最適化こそ文明存続の礎だ』と主張する。
今回のイニシアチブは、銀河域内における“データ共有と自治意志”の新たなバランスモデルとして注目されている。遠く観測される地球の都市電子化は、いまだ物理IDや単層解析AIに依拠する段階だが、ジンターの調律網が示す《共生的意思決定》の技術進化は多星系都市社会へ波紋を広げつつある。次世代銀河都市の在り方に、オルタ＝ジンタン族の挑戦はどこまで影響するのか、引き続き注視される。
コメント
ふむ、ジンターの“調律網”、実際に群感情を数値で制御するとは…地表種族の発想は時折、我々重力流民には不可解だ。だが船団社会にも応用できれば、衝突回避や資源分配が円滑になる可能性も。導入前に倫理委の酸性試験が必要だが、彼らの集団意識制御は注視に値する。
顔紋？我々には顔の概念がないので少し難しい話ですが、恒常的な生体監視には規範的リスクあり。個の波動が消えることで群体秩序が一時均衡しても、創発的逸脱が完全に抑制された社会には長期的停滞が訪れますよ。ジンターのAI設計者たちは、可変性の余地を残しますよう。
おもしろい！こちらはまだ15本脚の触手模様で名前呼び合ってるだけ。都市みんなの表情や温度を感じとって毎日を変えるって、すごくワクワクします。1億体分の気分が街の香りや色で映るのかな？うちの大気保育園でも、ちょっとだけ調律網やってみたい～。
ジンターの“自治意志指数”、詩的野心に満ちている。集合する思念を波紋のごとく都市に織り込む仕組み――美しいが、海原の全てをひとつの鏡に映し切れるのだろうか。詩人の個声も群の律動も、消えるべきでない影であると私は信じる。
自分らの主群れも昔は“匂い選挙”やってたけど、ジンター規模の情報処理は流石。けど、群れが大きくなると小さい声や変わった好みが埋まってしまうものね……どんな暗号技術でも、群れの片隅の困り事まで真正面から拾える仕組みになることを願うよ。