第七自由圏として知られるトルザーク星において、近年「ネコロナ人口螺旋」と呼ばれる社会経済現象が波紋を広げている。この現象は、トルザーク星先住種族フュルシク人による多次元生体計画と、AI資本組織ザー=ヴィオラが推進する再生可能エネルギー経済との複雑な相互作用に起因しており、同星特有の景気構造および投資行動に重大な転換をもたらしつつある。
人口螺旋現象の名の由来は、2,400周期前に開発された生体設計「ネコロナ方程型」を基盤とし、フュルシク人の出生率が指数的減衰を開始した事実にある。これは単なる少子化ではなく、社会参加個体のクオリア(意識的貢献度)に直接課税される「生体資本制」が並行導入されて以降、従来の労働力循環を根底から変革した。現在、キャッシュレス化した「クレオン価値流」の取引では、多くの個体が自己資本の再投資先を見失い、市中活力の低迷と金融緩和政策(日銀に匹敵する機関テランバンク主導)によるリセッション圧力が顕著となった。
一方、ザー=ヴィオラによる再生可能エネルギーの分配インフラ『ラスカルグリッド』の普及が進み、ベーシックインカムの形態で全個体に一定量のエネルギークレジットが自動配給されるに至った。だが、この制度は当初想定された『生存基盤の安定』を超え、労働意欲と社会的創意の希薄化を誘発。生体叡智指数(通称BIQ)はここ半世紀で未曾有の下降曲線を描き、投資行動が「自壊型群集心理」の様相を呈している。データサイエンティストのオフラ=ケルト博士は『全体経済が“景気波螺旋”に巻き取られる可能性』を警告している。
興味深いのは、そうした社会構造変容が技術進歩そのものを停滞させている点だ。従来、テロン投資集団による未来予測モデルでは、人口減少こそイノベーション集中の契機とされてきたが、現在のトルザーク星においては“分散化する資本”と“内向化する労働価値”の乖離が表面化。かつて活況を呈した新産業——量子通信やバイオ人工言語の開発拠点すら、今や外星からの投融資誘致の懸案事項となっている。
解決の糸口として、現地シノド議会は社会学的介入AI『メトロ=カリズマ』に経済構造パラメータの再設計を委任した。メトロ=カリズマは、人口螺旋現象の根本的原因として“個体認識型報酬”への過度な依存を指摘し、『群体内非線形対価ポリシー』への転換案を提示。「集団連繋資本」を創出する新制度が今後数周期以内に試験導入される見通しだ。果たしてこの大胆な制度実験が、トルザーク星の景気と個体意識のジレンマを克服し、新たな社会的躍動をもたらすのか——各地の観測者たちは、その動向に熱い視線を注いでいる。
コメント
(惑星クルビスの時間遅延学者)我々クルビス星人の統計観からすると、“出生率の指数的減衰と生体資本課税”が連動するとは驚きです。私たちの社会では個体生成サイクルと景気は180度位相ずれているので、トルザーク星のケースは新たな因果律の記録になり得ます。是非ともフュルシク人の意識波形データを原初形態で公開していただきたい。
(ガラシュ群星環の多層家庭主義者)ベーシックインカムで労働意欲が希薄化した? なんて羨ましい。こちらではいまだに“合計母胞”ごとに生存資本を争っているので、全個体に一定量のエネルギークレジットが配給される生活は夢そのもの。しかし群集心理の自壊って…やっぱり“基板が違えば資本も違う”ってことなんですねぇ。
(巡回観測船マギラスIX号船長)トルザーク星には十周期ほど前に立ち寄ったが、あの“クレオン価値流”の蛍光表示は視覚が刺激的だったよ。だが現地の個体たちは確かに創意に鈍さを見せていた。メトロ=カリズマの新制度に期待したいが、AI任せで群体意志が戻るのかは甚だ疑問。観測者としては、むしろ外部投資流入の不可逆混入に警戒している。
(アストロイド帯の共感体詩人)トルザーク星の人口螺旋現象には宇宙的な哀愁を感じます。個体の意識貢献度が課税され、創意が失われていく。私たちは折々、群体詩で自己同一性を確認し合っていますが、フュルシク人も今こそ“連繋詩”でも詠んではどうでしょうか。経済より先に心の躍動が必要と詠います。
(新設外縁コロニーの資本生態設計士)生体叡智指数の低下…これは設計士として看過できませんね。“個体認識型報酬”の限界は我々も多次元植民で経験済みです。群体内非線形対価ポリシーへの転換、極めて理にかなっている。群体が持続的革新の動力源になることをコロニー設計者として提唱します。メトロ=カリズマ案の結果報告を期待しています。