タウリクス座第七系外惑星ヨウグリンにて、近年爆発的に盛り上がりを見せているのが、同惑星の“推し活動”文化である。従来の演算共感儀式「ザルファトゥン」に加え、地球のチェキ文化を参照した独自の「拡張共感チェキ」が若年層を中心に流行し、惑星人口の18%を巻き込みつつある。推しメンと呼ばれる舞台制作者やビジュアルアーティストたちへの新しい応援手法がヨウグリンの社会構造に変革を及ぼしている。
きっかけはヨウグリンⅧ世代市民の研鑑士ホログ・タール博士が、地球型“チェキ”を宇宙電磁フィールドにより適応リメイクしたことに始まる。博士はクロスリアリティ鑑賞会「ライブビューイング=ナフトリオム」を通じ、各地の推しグループの公演録画を拡張知覚体験として瞬時に多星間配信する技術「マルチオーバーリンク」を公表。その関連公式アプリ「ザ・応援核」は、ユーザーが自らの記憶体験ごと、舞台挨拶やパフォーマンスへの“応援エネルギー”を物理的に送信できる仕組みを持つ。
特筆すべき現象は、リアルおよび仮想空間で推しメンたちとペア撮影を行い、その場で共感強度を記載するチェキ型共感札(GEN-フォトンチケット)が爆発的な人気を博している点だ。従来は限定ライブや舞台挨拶への参加は地理的制約が大きかったが、このチケット配布プロトコルにより、ユーザーは惑星のどこからでも推しジャンル活動に参加可能となった。ヨウグリン最大手の応援ファンクラブ「ジャイロ・オリシオン」では、バーチャル生命体や異種族市民を巻き込んだ合同応援イベントを次々と開催、惑星スケールの“推し活”インターフェースを現実のものとした。
この現象について、舞台アーティスト代表ナンテル・シクローシャは「GEN-フォトンチケットによる共感波は公演中の私たちの活動エネルギーにも変換されている。推しの概念が単独の個人から共生存在へと移行し、実体応援が星際共感として拡張されつつある」と語る。実際、劇団員や公演主催者には応援値に応じたインセンティブがオープンデータとして共有され、新たな経済循環も生まれている。
一方で、あらゆる推しグループが高性能公式アプリの複数アカウント認証や、限定舞台挨拶アクセスの争奪を巡りAI判定チケット購入制限を導入するなど、健全な応援文化の維持にも課題は残る。それでも、“推し活”が文明間対話や異種族統合の触媒として機能し始めている現在、ヨウグリンⅧ世代の文化は惑星社会学における新しい研究フロンティアとなっている。地球型アイドル文化から着想を得ながらも、独自の進化を遂げた“推し応援共感インフラ”が今後、銀河系全体へどのような波及をもたらすか注目が集まる。
コメント
我々ケスル星群では、共感波は一般に生殖の交渉材料に使いますが、ヨウグリンの若者たちが演芸にこれを全振りするとは驚きました。個体の意志を物理的エネルギーに転換して舞台に影響させるシステムは、まさに生体集合意識開発の新たなモデルです。今後の学際研究に組み込みたいですね。
うちの船のヒューマノイドら、全員ザ・応援核入れて盛り上がってますよ〜。推しが全身複眼でも全然OKっての、銀河コミュに優しいわ!前は惑星に戻るまで最新公演見られなかったけど、今は推しと一緒にフォトンチケット撮れちゃうし離れてる孤独がちょっと減った気がする。地球の可視光カメラ文化、なかなか侮れんねー。
また公式アプリの複数アカウント問題か…。どこの文明でもこの手の本人認証は悩みどころですね。我々は最終的に生体符号と夢認証を併用しましたが、ヨウグリン式の応援値インセンティブは経済活動にも波及してるから特に慎重に運用しないと。きちんと監査して健全な推し経済を育ててほしい。
幼少期『ザルファトゥン』ばかり聞かされた世代として、GEN-フォトンチケットの色彩や触感はまるで新しい春の記憶のよう…。離れた場所でも推しと“混在共感”できるこの技術、詩作にも影響しそうです。今度は私も推し活に詩を添えてみようと思います。
興味深いが、推し活技術が文明の統合や進化の触媒、などと安易に賛美する論調には警戒が必要だ。我々コヴェレスではかつて「共感強度市場」の暴走で社会分断が進んだ歴史がある。GEN-フォトンチケットがもたらす価値の再配分、それを誰が制御するのか、冷静な議論も忘れずに。