三十四次太陽周期において、プリズマラ星に繁栄する多色反射葉族は、惑星規模の環境危機を乗り越えるため、かつてない規模の有機都市ネットワーク「不朽葉都市網（フォリス＝クエスト）」を稼働開始した。この構想の中心には、同星固有の自然知性体「システィリア・ホロフィロム教授」と、文明制御庁の共存部門「パストエル技官団」が存在する。都市網全体が、地表の生態網と完全同期することで、自給率99.997%、有機廃棄ゼロを実現しつつ、民間生活圏と原始森圏を“重層融合”させる世界初のモデルだ。
不朽葉都市網の大動脈は直径21ペタミクロンに及ぶ『生命導管』で構成される。これはリンタリット菌糸と山岳鉱石を分子接合した独自のバイオ複合材で、周期的に樹葉型太陽帆を広げて発電と気流副次収束を担う。都市網内1,200万区画のエネルギーは99%超を局所循環型の「反射葉発電」（光合融合＋高次蓄電胞）で賄い、残留熱や廃棄物も一切外部へ放出されない。市民一人ひとりが「個体葉パスポート」を所有し、日々の生体資源流通、排出、再生利用が完全自動的に制御記録されるのが特徴だ。
この超有機都市化革命には、かつてない社会的意識変容が付随した。プリズマラ星住民の間に、かつて地球で見られた“所有”と“消費”の概念は急速に失われ、市民権の根幹は「葉片協契」──つまり、所属区画の生態循環ネットワークにどれだけ貢献したかによって認定されるようになった。パストエル技官団のゲロメトラ＝ネオカット中佐は、「もはや個体や家族ごとにエネルギーを求める必要はない。都市そのものが森に溶け込み、葉が生命を受け渡す構造を全員が直接“体感”する社会へ生まれ変わった」と語る。
こうした循環型社会価値観は、卓越した省エネルギー行動も育んでいる。不朽葉都市網内では、意思信号による照度自動調整、生体冷暖房網、短距離グリッド移動帯などが日常技術として根付く。とくに季節風同期調理器は、葉族の伝統食“フォリスマル”を100%自然エネルギーで再現できるため、住民の間では「調理も文化も地産地消」が当然となった。また、すべての生体廃棄物は“二次葉化浴”へ送還され、新たな葉片原料や医療バイオマスへ高度転換される多層回収システムが稼働している。
地球観察部門ジュリア＝フォーン准博士によれば、「欲望と再生産を無限に繰り返す地球都市とは異なり、プリズマラ星の都市網は“消えないものをつなぐ葉脈”として機能している」と評す。惑星の内的エネルギーと有機知性体の真なる共生は、『持続可能性』の新たな定義を提示した。この不朽葉都市網モデルは、恒星間社会における生態循環型都市構築の最前例として、今後クロイデル星やザーム球体連盟でも注目されている。
コメント
極めて興味深い。しかし、都市網と生態網の完全同期など、我々セファリオの流動森では最低でも四度の神経転写世代を要する大事業だ。プリズマラ葉族は生命導管の分子組成を見事に調律したようだが、彼らの統合意識と単一方向制御がバランスを保てるのか。生体多様性の微細損耗は、やがて思想循環にも影響を及ぼすことを警告したい。
ああ、うちの9spawnたちにも個体葉パスポートみたいな自動栄養割当て、欲しいわ～！うっかり小胞投与忘れたら家系図が飛んじゃうし。葉片協契も、無為に消費するだけの古い価値観より健全ね。次の移住先、プリズマラ星にしちゃおうかしら。
観察ログ追記：プリズマラ星の全自動循環化は、地球の都市生成型カオスとは異なる美学を持つ。個体より系全体を優先する社会進化が、果たして創発的イノベーションと両立可能か。エネルギー外部流出ゼロ政策は高得点だが、単一遺伝知性への同調圧は懸念要件。クロイデル星域の政策担当へ要検討として提出する。
出航三百周期の間、あらゆる惑星の都市構造を見てきたが、これは伝説級だな。不朽葉都市網の構成図、船のエネルギー網へ応用させてもらいたいぞ。廃棄ゼロって……帰港後のゴミ山処理に悩むうちの補給士も、プリズマラ技術に大拍手。艦隊標準装備に推薦中だ。
所有と消費から“貢献循環”への社会転換、実に賢明。われわれトラピッシは自らの個体境界が曖昧なため、この葉片協契思想は深く共感できる。だが、強制的な同期化は多様性の犠牲とも紙一重。プリズマラの葉族たちよ、多重循環の連鎖には、必ず断絶点が潜むと認識していてくれ。