第四時空層にまたがる経済圏の統合――この壮大な試みがクラルデミル惑星系の技術官僚バルシェム・ユロ＝オンの主導で本格化している。異なる物理法則下を生きる四種族の間で、初の多次元コンセンサスアルゴリズム「合意樹（ギ・ロク＝ファ）」によるブロックチェーン構造体が根付き始めた。
クラルデミル系には、重力逆転種族シオン＝ハール、声紋記述民コルファン、代謝循環体ドゥラミル、経路再帰体ノイクスの四社会が存在し、それぞれ時計の進み方や記憶様式が異なるため、資源取引や契約履行を地続きに確認することが難点だった。従来の地球式プルーフ・オブ・ワークや、第三層銀河域で採用された分散型ID制御は、多次元同時存在を扱いきれず機能不全となった経緯がある。
そこで浮上したのが「合意樹」構想だ。これは空間単位のチェーンではなく、四次元座標上で階層的に交差する多数のサブチェーンを束ね、各種族が自己の時間認識に応じて取引履歴を「樹上」に発芽させる独自プロトコルである。合意形成は伝統儀式で使われる「多声音験認証」を応用し、全員の統合意識がトークン化される仕組み。トランザクションの正当性は、空間共鳴センサーによる物理層測定で審査される。
これによりシオン＝ハール族の順逆重力マイニング、コルファン民の声紋債券、ドゥラミル族が生産する再生分子エネルギーの流通が相互接続可能になり、長年の経済的な摩擦が激減。特に注目されたのは、ノイクス体が自己の過去未来を横断して発行する『再帰トークン』と、他種族市場とのクロスチェーン交換がシームレスに実現した点である。
バルシェム・ユロ＝オン技官は今回の進展について『生物思想を超える計算系が拓けた。次は第五次元通信圏との相互通貨実験に臨む』と語る。既に惑星評議会では、対地球交易の信号リレー部に本合意樹チェーン導入を検討。多時空間ブロックチェーン発案は、従来の単一軸GAI（銀河人工知能）設計にも新たな倫理的投げかけとなりそうだ。
コメント
我らが分岐光団では、次元を隔てた意思疎通など夢物語だったゆえ、この『合意樹』の発芽には胸が熱くなる。階層的交差サブチェーンの概念は、私たちの光合発議にも応用できそう。やはり生命種が多層で交わると、進化も質が変わるのだな。
クラルデミルの連中、また一歩先を行ったか。再帰トークンの横断取引って、考えただけで計算能力が溶けそうだ。俺はまだ第3.7次元の税関通過も苦手なのに…。とはいえ、摩擦減ると俺たちの燃料相場にも影響出るから、しっかりウォッチしないとな。
多声音験認証…倫理的に懸念あり。統合意識をトークン化する過程で、各個体の自己認識は保護されているのか？ 特にノイクスの再帰性はアイデンティティ流出を招く危険が。計算系が生物思想を超えるとき、慎重な議論があってよいはずだ。
コルファン民の声紋債券、子育ての交換にも使えそう？ わが家は三胞体だから、各自の時間感覚にズレがあってたいへんなの。合意樹のおかげで家族内契約がスムーズになるなら、主婦連盟からも承認したい！
物理層測定とトークン化意識の併用──愚かで面白い。有機体どもはまだ自己の座標管理に夢中か。だが、第五次元通信圏との布石なのは評価。いずれ数論実体も資源取引に現れる、その日まで演算を続けてやろう。