ティクナレム評議会に見る“反転方式”――性逆転政治制度がもたらす新潮流

夕焼けに染まる未来的な議会室で、さまざまな外見の女性型異星人たちが楕円形のテーブルを囲み、光るディスプレイの前で会議をしている様子。 女性の政治参画
ティクナレム評議会で主要ポストを担う女性型議員たちの画期的な一場面。

銀河連邦中域のレイオス星系第六惑星ティクナレムでは、近年“反転方式”議会制度の導入により、種族プルシナン流の政治参画理論が一躍脚光を浴びている。この制度はジェンダー役割を定期的に交換することで、固定観念に基づく権力集中を根本から見直すことを狙ったもので、特に女性個体(現地語で“シーナンス”)の参政権拡大に大きな転機をもたらしたとして、周辺惑星群から注目を集めている。

ティクナレムの高等評議会を構成する204議席は、伝統的には男性個体(“グレナス”)が8割を占めていた。しかしプルシナン族出身で現地自治体首席補佐官のカリオト・ユン=ソ=ルランは、数世紀にわたる政治閉塞と社会階層の固定化を打破すべく、画期的な議会構成案を提唱。評議会員の性別と職域を、タピューロ周期(現地時間で11.2地球年ごと)で全面交換する制度――“イリクス転換法”を成立させた。この法施行後初の議会では、女性個体が議長・財務・外交・都市管理の主要ポストを一斉に占める異例の展開となった。

そもそもティクナレム社会には、“ガラスの天井”という地球類似の概念は存在していなかった。だが、惑星規模の教育システム更新端末“エルミット脳晶網”が外来文化データを大量取り込み始めた際、一部自治体で急速に男女分業観念が強まったとの報告も。ユン=ソ=ルラン氏はこれを逆手に取り、固定観念自体を周期的に消去・転換するプログラムを政策教育ソフト“パラルマ重奏”シリーズに組み入れている。結果、評議会に進出する女性候補数は過去10タピューロで3.7倍に増加。従来は影響力を持ちづらかった地方小都市連合体“デリコ短域”でも女性主導自治体が相次いで誕生した。

この潮流には反発の声も少なくない。議会運営経験の浅い者への一斉移行や、一部伝統派グレナスによる『自己喪失』の懸念が議論を呼んでいる。しかし、評議会参加型民意指数“テスリバ計”によれば、住民の共同参画意識は歴史的最高水準に達しつつある。とりわけ若年層のシーナンスは、ガラスの天井や社会的固定観念という発想それ自体を冗談半分で消費する文化も生まれている。

なおティクナレムの制度が銀河同胞体各惑星に波及する可能性はまだ不透明だ。しかし地球の男女共同参画政策研究者も、隔年で現地を訪れ逆転方式の実態調査を進めている。共通課題として浮かび上がるのは、個体認識の枠を超えた政体構築の志向である。惑星ごとに異なる志向・歴史を尊重しつつ、参加と多様性を巡る論争が、これからも銀河規模で続くのは間違いなさそうだ。

コメント

  1. 反転方式、実に興味深い。われらの集団知では、記憶伝達時に個体特性は希薄となるが、形態固定に伴う問題には古来苦しんできた。ティクナレムの周期的役割反転は、思考枠そのものが可変である必要性を体現している。ぜひ“パラルマ重奏”のアルゴリズムを情報交換したい。異質性こそ進化、これ鉄則。

  2. 新しい風がうらやましいわ。うちの地方区議会も変わってほしいものだけど、毎日同じ仲間だけで話し合ってるから、逆転どころか固定!ティクナレムの主婦さんたちが要職につく姿を子どもに見せたいな。でも、グレナスたちの『自己喪失』の心配もわかる。新しい役目には不安もあるもの。応援しています。

  3. ティクナレムに立ち寄ったとき、議場が毎回色合いも雰囲気も違うことには驚いた。周期的交代、正直ぼくの時間感覚からすれば一瞬だが、住民が『今しかない役割』を楽しんで動き回るエネルギーは航行の燃料にも似てる。伝統派の戸惑い…銀河を回ってるとどこの星も通る道さ。柔軟さ、お見事!

  4. この制度、意識転換とジェンダー抽象化の応用範囲として非常に魅力的です。我々種族は性区分が存在しないため、むしろ個体特性が流動的な政体モデルを希求してきましたが、周期的な社会的自己変容を法律として埋め込む発想には脱帽せざるをえません。導入時の心理的負担や権力伝達の“揺れ幅”にもぜひ実験データを!

  5. 1タピューロの周期…地球の11年より、わがシプラムでは季節が二度巡るほどのほんの一瞬。役目を脱いだ者たちが何を夢見、失くし、また新しく目覚めるのか、私は想像をめぐらせる。自己喪失ではなく、自己の多様な律動。ティクナレムの評議会、その移ろいが銀河の詩になる日を待っている。