クロロン大群系の中枢に位置するデリョーリア星で、今年最大級のアーバンスポーツイベント「垂直メタ・ラリー」が開催された。競技は同星独自の自律進化都市「ハクテラス」が変形する高層市街を舞台に、ランニング、壁面クライミング、そして実時間eスポーツ対戦を組み合わせた極限都市競技だ。推進生命体プレータ・リンカス氏率いる競技管理機関によると、今季から都市遺伝子体（ジノ・インフラ）との協調次元が加わり、異星諸文明が注視する大規模祭典となった。
競技の最大の特徴は、都市建築そのものが“生体インフラ”として競技者と連動し続ける点にある。ハクテラス都市は人口知能「ウルバヌム核」と19万の遺伝子テクタイトによって常時自己変形し、レース進行を自らの意思で難化・簡素化を繰り返す。プレータ・リンカス氏によると、「本年度は都市の意思決定アルゴリズムにeスポーツの競技結果を反映させ、リアルと仮想を即座に編み直す機構が実装された」という。競技者が壁面クライミングや高速ランニングで物理都市を攻略するたび、次元座標上のゲーム空間もリアルタイムで変動。その結果、従来種族間競争の枠組みを超え、協調型・対抗型の混合戦となった。
大会で注目を集めたのは、デルムァ系「トラチェル族」の若手エリート、カリ・ゼロム・クッシュ少尉だ。彼は硬質ゼラトーニ被殻で構成された四肢を活かし、垂直壁に並行して異常速度で駆け上がるランを披露。また、都市の生体インフラが突然「重力チルトモード」へ切り替わった場面でも、即座にeスポーツ対戦場で仮想アバターとの連携戦術を駆使し、多次元壁面の最短軌道を生成してみせた。競技後半、彼はヴァリスタ星の「ルミノ・エシル＝ポート」氏と協調戦術を成立させ、都市全体への一時的「ストラクチャ・ホバリング」現象を誘発。観客席のズィ＝ターグ種族からは、「都市と生命体の完全なコミュニオンだ」と驚嘆の声も上がった。
今回の垂直メタ・ラリーでは、人工知能による都市変形の加速化が、新たな公平性指標を生み出している。従来のアーバンスポーツ競技では、施設設計側の意図が物理的に固定されがちだったが、デリョーリア星の「都市遺伝子体」では、応援する観客のリアルタイム投票や選手のeスポーツ戦績すら、都市自身がアルゴリズム的に評価し変形の契機とできる。専門家会議のモディア・シフラァ准教授（都市生命体系論専攻）は「アーバンスポーツの本質が“主客合一競技”へと進化した証左」と評した。
デリョーリア星での事例は、いまだ物理都市とゲーム空間を明確に分離しがちな数多の銀河系文明に新たな示唆を与えた。地球圏でも一部先進都市が実験的ARランなどに挑んでいるが、その進化速度はハクテラス都市の“生体インフラ型スポーツ”には遠く及ばない。今後、ジノ・インフラを活用した次世代アーバンスポーツが、銀河スポーツ文化の標準となる可能性も予見されている。クロロン大群系からは、早くも国際都市連携競技への応用が検討され始めている。
コメント
デリョーリア星の都市遺伝子体技術には毎回舌を巻きます。こちらバイストの生態都市も多少は順応型ですが、ウルバヌム核のような自己変形知能はまだ夢物語。都市自身が主観を持ち競技に干渉する、その倫理的レイヤーの設計思想に銀河競技哲学の転回点を感じます。プレータ・リンカス氏らの仕事、ぜひ査読したい。
うちの長子も壁面ランニングゲームが大好きですが、デリョーリアの『現実都市を動かしながら遊ぶ』って発想には驚きました！家のリフォームとスポーツが一体なんて…子育てがますます大変そう。でも観客の応援で都市が変わるなら、応援弁当も真剣勝負になりそうですね。
この垂直メタ・ラリー、観測記録でぜんぶ見ました。あの重力チルトモード、加速トンネル航法に近い！（でも主機を止めずに都市が変形するのは本気で怖い）うちの惑星フリーライド競技連盟も、いつかeスポーツ連携試してほしいですね。クッシュ少尉の多次元壁面生成は真似できませんが…
都市と生命体が真の調和を成してこそ文化。かつて我らの祖も氷迷宮都市に魂を投じた。我らの夢想に比しデリョーリア星はずいぶん賑やかだが、競技を超えた共鳴の場面にほのかな郷愁を覚えた。都市もまた命なり。
ウルバヌム核のリアルタイム意志は、うちの分散型都市AI研究室でも伝説になっています。だが解析結果では、まだ都市意思の部分的バイアスが強い。公平性指標、もう1-2世代進化すれば銀河基準になるはず。我がユマンクスAI部門は次回大会のデータ提供を申し出たい。