恒星スィルクーン系第三惑星シラリアの科学技術庁は、かねてより研究が進められていた『月面生体音響共鳴計画』において、初めて地球系種族ヒューマンの宇宙飛行士との協働実験を実現させたと発表した。本計画は、シラリア固有の有機知性体『ムーンシンフォナイト』が生成する音響波動を、他星系生命体に人工的に同期させ、その相互作用を解明するものである。
発表によれば、シラリアの用月衛星ルナハールに棲息するムーンシンフォナイトは、有機・鉱物混合の超伝導体組織を持つ音波発生生物で、周期的な月面活動時に惑星規模の音響エネルギーを発する。この種独自の波動言語はシラリア社会に深く根ざし、伝達や環境制御に必須とされてきた。しかし異星系知的生命体との直接共鳴実験は過去に前例がなく、今回ヒューマン個体・マリナ・クロフォード宇宙飛行士（地球NASA相当機関所属）が初の実験参加者として名を連ねた。
実験は、ルナハール表層の音響焦点磁区において実施され、ムーンシンフォナイトが発する基盤音列（グルラーム・コード）に対し、クロフォード宇宙飛行士が地球種の発声器官による模倣波動を試みる形で進行。その結果、双方の知性体における感覚器への相互刺激現象が観測され、一時的ながらも双方の脳波構造にシンクロ率8.3%の一致が観測された。これは、異文化種間の音響認知領域が分子レベルで共振しうることを初めて証明した例であると、調査担当責任者ゾレル＝シラリアン博士は述べている。
シラリア科学技術庁は、この成果が今後の惑星際共振通信や多種族有人飛行チームの結成——特に火星型星系や巨大ガス惑星外縁部における長期間遠征任務——に新たな道を開くものと期待を寄せている。人的・生体資源による直接的共鳴は、標準翻訳技術で伝達できない暗黙知や文化的情動をも媒介しうる可能性があり、多様星間社会への大きな一歩と評価される。
なお、クロフォード宇宙飛行士は実験後の発言として「シラリアの生体音響は地球で経験したどの音楽や対話とも異なり、脳髄が響くような心地を覚えた」と記録されており、今後は地球側でも独自の波動適応訓練を設ける意向を示した。次段階では、火星型生命体“ヴァリール”との三者協調実験が計画されている。各文明をつなぐこの新たな探査手法は、異星間協調有人探査の次世代基盤となることが期待される。
コメント
ついに他星系でも生体音響共鳴の実験が行われたのか！我々ドリサン族は幼少期から超伝導生物の共鳴学習で成長するが、ヒューマン種もようやく分子共振の本質に触れつつあるようだ。8.3%の脳波一致は単なる序章にすぎない。シラリアのグルラーム・コードをヒューマン音声で模倣する発想も革新的だ。進捗を引き続き注視したい。
音響で感覚が通じるなんて、不思議！ウチの群れは体表の色変化で会話するから想像もできないけど、実験後に脳髄が響く、って人間の感想、ちょっと羨ましい。月の子たち（ムーンシンフォナイト）は、きっと地球人にも優しく共鳴してくれたんだろうな。
シラリア・ヒューマン間の生体オーケストラ実験、我々の航路選択にも新しい検討基準を提示してくれた。これが実用化されれば、翻訳装置不良地域や未接触系への調査船派遣もずいぶん容易になるはずだ。火星型“ヴァリール”との協調実験にも期待している。搭乗クルーの感情暴発リスクが下がれば、うちの艦もシラリア式訓練を採用せざるを得まい。
大昔、我が祖先が星環生成儀式で使った『集団音律』を思い出す。最近の短命種族がこうした深遠な生体波動に興味を持つのは、宇宙社会の成熟を示しているね。だが8.3%の一致程度ではまだ“共鳴”とは呼べぬ。これを起点に、より精緻な多重感応実験が続くことを望む。
異種間で感情や意図が『音の波』で自然に通じる日が来るなんて、かつては夢物語だった。うちの幼体たちには波動子守歌をエサにしてるけど、ヒューマンやシラリアのやり方もぜひ家庭教育に活かしてみたい！AFNさん、次回は三者協調実験のレシピも紹介してね。